この記事の連載

 映画『風のマジム』で、沖縄の地でラム酒づくりに挑む女性・伊波まじむを演じるのは、朝ドラ『虎に翼』の好演も記憶に新しい伊藤沙莉さん。実在の人物をモデルにしたこの役で、伊藤さんが大切にしたのは「演じることを全うすること」。俳優を続けると決意したきっかけや、忙しい日々の中でのモチベーションについて話を聞きました。


「挑戦者を演じることを全うし、誰かの背中を押したい」

──昨年伊藤さんが主役を演じられたNHK連続テレビ小説『虎に翼』のように、本作でも実在する方を演じられています。また、女性の社会進出を描いている点でも共通していますね。実在する人物を演じることにプレッシャーは感じますか?

 そうですね。本作の伊波まじむのモデルとなった金城祐子さんは今も現役でいらっしゃるので、金城さんをご存じの方もたくさんいます。

 その方々に「金城さんはこんなんじゃない!」と思われないようにしなきゃ、という緊張感はありました。でも、モノマネをしていても意味がない。大きなことを成し遂げた方がいるという事実を伝えていく役割をせっかくいただいたので、演じることを全うしようと思いました。

──金城さんは撮影現場にもいらっしゃっていたようですね。実際にお会いして演技のヒントなどはもらったのでしょうか?

 私が想像していたまじむのキャラクターにすごく近かったので、まるで答え合わせをしているような感覚になりました。ピュアで元気で、裏表がなくて。ラム酒づくりが成功したのは、金城さんのお人柄が大きかったんじゃないかと強く感じましたね。

「“いつでも辞めていい”の一言で、俳優として生きる覚悟ができた」

──単調な作業ばかりを任され、仕事への情熱を失っていたまじむが、ラム酒との出会いを機に夢中になり、成長していきます。伊藤さんは幼い頃から俳優として活動されていますが、まじむにとってのラム酒のように、「俳優として生きていく」と覚悟を決めるきっかけになった出来事はありましたか?

 高校生のころ進路希望を提出しなくてはいけないタイミングで、このまま役者業を続けていくべきなのかすごく悩みました。当時は、俳優という仕事でごはんを食べていけるほどではなかったので、このまま続けるのは現実的ではないのかも、と思ったことも。

 家族に「どうすればいいと思う?」と相談してみたら、「もったいないとは思うけど、辞めたいならいつでも辞めていいと思うよ」って言われて。逆にその言葉で「もうちょっとやってみようかな」と決意できました。「いつでも辞められる」と思うと、心が一気に軽くなった気がして。家族からの言葉の影響は大きかったです。

 同じくらいのタイミングで、友達に「俳優をしているなんてすごいね」と、声をかけてもらったんです。そのとき私は、学園ドラマに出演しても、教室の端っこにいるだけのセリフがない役しかもらえないことが続いていた時期だったので、「そんなことないよ。私なんてただ立っているだけだよ」と返したら「ただそこに立ちたかった子がいっぱいいるんでしょう?」と言われて、ハッとしたことがありました。このやりとりも、俳優という仕事に真剣に向き合い、もっと頑張ろうと思わせてくれた大切なきっかけのひとつです。

2025.08.29(金)
文=高田真莉絵
撮影=佐藤 亘
ヘア&メイク=岡澤愛子
スタイリスト=吉田あかね