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好きな男との別れを余儀なくされ、言いようのない苦しみの最中にいたあの時。なぜか真っ先に連絡したのは、遠くから眺め恐怖していたはずの“爆美女”だった。初めての出会いから10年ほど経ち、今、彼女との関係は? 魔法のない時代に生きる「魔女」を描いたエッセイ、第10回です。後篇を読む)

 締め切り続きの第3週が終わり、いい加減惰眠をむさぼるのにも飽きたので部屋を片付けることにした。溜まった段ボールを潰し、洗濯物を適当に畳んだあと、テーブルの上に山積みになった、平たい小包の開封に取り掛かる。そのほとんどはご恵贈に与った本であるのだが、毎日何かしらを送っていただいているのでなかなか読み切れない。せっかく頂いたのだから、読んで感想のひとつでも書かなければと思っているうち、また次の本がやってきてしまう。そもそも本はあまり読まないし、今は自分のことであっぷあっぷの毎日である。それに、他人が書いたやたら面白い本なんか読んでしまったら、変に落ち込みそうな気もして恐ろしい。けれども本棚からはみ出た本がどっさりと床に積まれていく光景というのは、それを眺めているだけで賢くなったような気がして嫌いではない。そんなことを考えながら茶色い梱包を順番に開けていくと、数冊目にピンク色のかわいらしい装丁の本が現われた。

「あぁ、このあいだインスタで宣伝してた新刊かぁ」

 分厚い本を手に取ると、表紙の反対側に手紙が同封されていることに気がついた。嫌味のないはっきりとした文字で書かれた挨拶と、こちらを気遣う丁寧な文章が紙いっぱいに書かれている。やっちまった。この本が何日前に送られてきたかを思い返しながら、私はあわてて彼女にお礼のLINEを打ったのだった。

 妹尾ユウカといえば、爆美女にして爆乳にして爆舌の、泣く子も黙る一流コラムニストのことである。彼女と出会ったのは私が17歳、彼女が16歳の頃だった。私が当時付き合っていた人は、同じ高校生ながら個人で動画作品をつくる活動をしているような人で、ネットの世界ではちょっとした有名人だった。彼の動画制作のエキストラとして現場に駆り出されたある日、彼のインターネットフレンズとして現れたのが妹尾という女だった。私たちはすぐに仲良く、ということには当然なっていない。暗くて声も小さい貧乳と、派手な雰囲気の口の悪い巨乳。私たちは彼の有象無象の取り巻きのなか、しばらく互いを理解し得ない生物として眺めているに過ぎなかった。なんなら私は、妹尾のことを恐怖の対象として認識していたのかもしれない。当初の私は、彼女とは関わり合いになりたくないとすら考えていたと思う。

2025.09.02(火)
文=伊藤亜和
イラスト=丹野杏香