実際に役を生きてわかることもある

――歌舞伎に登場する女性というのは、得てして報われないタイプが多いですよね。そんななかで異彩を放っているのが昨年6月に博多座で演じられた『修禅寺物語』の桂。伊豆の修禅寺村に隠棲する面作師・夜叉王の娘で、父に似て職人気質の妹・楓と違い身分の高い人物に奉公してその寵愛を受けたいと願う激しい女性です。
演じていて楽しい役でした。嫌味なことを言ったりもする女性なのですが、お芝居していて気持ちがいいというか……。気位の高いところは公家気質だった亡くなった母親に似ているというふうに描かれていますが、実際に演ってみて思ったのは、実は父親似なんだなということでした。

――というのは?
絶対に妥協しないというか、桂は最後まで自分の意志を貫いています。こだわっているポイントは違うけれど、そういう気性はやはり父娘だったのだな、と。源頼家の側女になった桂は将軍の身替りとなって深手を負い、父親の目の前で息絶えます。きっとその時に初めて父娘はわかりあえたのではないでしょうか。
――深いですね。若い女性の断末魔の相の手本として、夜叉王は桂の表情を描き留めます。妥協を許さない芸術家の性と確かに通じるものがありそうですね。演じていらしたのが実際のお父様である坂東彌十郎さんでしたから、得も言われぬ臨場感がありました。
機会があればこれもぜひまたやらせていただきたいお役です。
――作品の雰囲気や役の持ち味、演出家によって異なる稽古場の有り様などさまざまなシチェーションで舞台に向き合い、成果を出されています。それぞれの現場に向かう際に大切しているのはどのようなことでしょうか。
自分がどういう役者なのか、その特性を自覚した上で、自分に求められていることを探っていく、ということでしょうか。稽古の進め方や雰囲気などはそれぞれなので、そこで感じる空気を察して対応していくという感じです。
――その冷静さと適応力は一般にも通じる大切なことですね。では最後に、究極目指していることを言葉にすると?
一貫して思っているのは共演者や演出家から必要とされる役者になりたい、ということです。それから……。消極的に聞こえてしまうことかもしれませんが、必要以上に背伸びをし過ぎない。成長できる範囲で成長し続けていきたいと思っています。
素顔の新悟さんは至ってもの静かで控え目な印象。それが役を得るとまるで別人となるのですから、そのギャップが放つ光彩にはたまらないものがあります。『野田版 研辰の討たれ』の稽古場では新悟さんのはっちゃけぶりに出演者から笑いが起こる場面もありました。
与えられた役割をきっちりと果たすことで、まさに“必要とされる役者”として、地に足をつけて邁進する新悟さん。9月は歌舞伎座で通し上演される『菅原伝授手習鑑』で、『賀茂堤』の八重(Aプロ)と斎世親王(Bプロ)と『賀の祝』の千代(A、Bプロ)を勤めます。
八月納涼歌舞伎
2025年8月3日(日)~26日(火)
第一部 午前11時~
第二部 午後2時15分~
第三部 午後6時15分~
【休演】12日(火)、20日(水)
https://www.kabuki-bito.jp/theaters/kabukiza/play/936
秀山祭九月大歌舞伎
2025年9月2日(火)~24日(水)
昼の部 午前11時~
夜の部 午後4時30分~
【休演】9日(火)、17日(水)
【貸切】昼の部:4日(木)、5日(金)、8日(月)、10日(水)、11日(木)、19日(金)※幕見席は営業
https://www.kabuki-bito.jp/theaters/kabukiza/play/937

今こそ、歌舞伎にハマる!
2025.08.23(土)
文=清水まり
撮影=佐藤亘(インタビュー)