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虫捕りに熱中する楽しい時間

「この山はマジでカブトムシやクワガタがたくさんいるらしいよ!」

 山道をワイワイと歩きながら、Tさんがそう教えてくれたそうです。

 それまでは窓の外から眺めるだけだったこの山を歩くうちに、Yさんはだんだんと夢の中を歩いているような不思議な感覚に襲われていました。

「みんな離れずに動けよ~。油断すると迷子になるからな~」

 Tさんのお兄さんは少しめんどくさそうにしながらも、Yさんたちの面倒をしっかり見てくれていたそうです。Tさんのお母さんは厳しそうな人という印象があったので、Tさんのお兄さんが気を引き締めているのも子どもながらに納得できました。

 ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ。

 鼻をプーンと突き抜けり鮮やかな草木と土の独特の匂い。

 さっきまで全身に降り注いでいたカラリとした日差しも、今や背の高い木々の隙間から時折目にピカピカと差し込むだけで、体感は随分と涼しくなっていました。

「いたいた!」

「捕まえろ!」

 噂通り山の中には大きなカマキリやカブトムシ、クワガタがたくさんおり、Yさんたち一行は虫捕りに熱中して楽しい時間過ごしていました。

「もうちょっと奥行ったらもっとデカイの見つかりそうだよな!」

「Tのお兄ちゃんに聞いてみようぜ」

2025.08.14(木)
文=むくろ幽介