マカオの記憶を映す伝説のホテルが再始動!

 マカオのホテルといえば、コタイ地区に林立する外資系ブランドが注目されがち。でも、歴史市街地区を歩いて巡るなら、街中のホテルを拠点にしたほうが、旅の自由度はぐっと高まる。

 街歩き派にとって理想的な滞在先が、街の中心部に建つ「新中央酒店(ホテル・セントラル)」。目抜き通りの新馬路(サンマーロ)沿いにあり、どこへ行くにも動きやすいロケーションにある。石畳を歩きまわって疲れても、すぐに部屋でひと息つける距離感が心地いい。

 このホテルの歴史は長く、そしてドラマチックだ。1928年に「澳門總統大酒店(プレジデント・ホテル)」として開業し、当時はマカオで最も高層かつ近代的な建物として注目を集め、カジノや社交場として賑わった。「ジェームズ・ボンド」シリーズの原作者、イアン・フレミングが、ここでカジノに興じたという逸話も。

 そんな伝説のホテルも、2000年代に入ると老朽化が進み、栄光の座は、華やかさを増す大型ホテルに譲られていった。取り壊しも現実味を帯びてきたなか、地元マカオのデベロッパーが20億香港ドルでこのホテルを取得。10年にもおよぶ構想と準備期間を経て、2020年に大規模な改修プロジェクトがスタート。そして2024年、ついに新たな姿でリニューアルオープンを迎えた。

 この壮大な再生プロジェクトを率いたオーナーは、質素な家庭に生まれ育ち、幼い頃から当ホテルに憧れ、いつかこの建物を手に入れたいと夢見ていたという。そんなサクセスストーリーもまた、ホテルにまつわる伝説のひとつとなっている。

 大改装を経て、外観には往年の趣がそのまま残され、内部は時代ごとの意匠を丁寧に取り入れたレトロモダンな空間に。タイルや窓枠、天井装飾などの細部に、旧時代のマカオが静かに息づいている。

 5階から10階にかけての6フロアは、それぞれ1920年代、30年代、40年代のマカオをテーマにしたインテリアで構成されている。趣ある廊下を歩いていると、ふと、チャイナドレスの女性が通り過ぎていきそうな、そんな雰囲気。

 東洋と西洋、今と昔が静かに交差するマカオ。その独特の空気を肌で感じられるだけでなく、街歩きの拠点として気負わず使えるカジュアル感も、このホテルの魅力だ。

Hotel Central(新中央酒店)

所在地 Avenida de Almeida Ribeiro, Nos.270
電話番号 +853-2828-6668
料金 760パタカ~
https://www.hotelcentral.com.mo/

2025.04.16(水)
文=芹澤和美
写真=SHU ITO(街、ホテル)