暮らしに息づくポルトガルの余韻を探して

 円安は続いているけれど、それでも海外に出かけたい。できれば週末を使って、気軽に非日常を味わえる場所へ――。そんな欲望を満たしてくれるのが、マカオ。成田や関空から直行便があり、日本各地からアクセスの良い香港空港からも直通バスで約40分。移動の負担が少なく、想像以上に身近なデスティネーションだ。

 アジアにありながらポルトガルの風情が息づき、香港や台湾ともまた違う、独自の世界観を持つマカオ。かつてはカジノの街として知られていたが、この十数年でそのイメージも激変した。歴史を感じる街並み散策から、最先端のエンターテインメント、そして洗練された食文化まで、多彩な体験をひとつの旅に詰め込める今のマカオは、旅慣れた大人の感性にも応えてくれる。

 マカオは大きく分けて、大陸から続く半島部、そこから橋でつながるタイパ地区、IR(カジノ・ホテル・ショー施設などを併設した複合施設)が集まるコタイ地区、そして自然豊かなコロアン地区の4つのエリアからなる。なかでも、ポルトガル統治時代の建築が色濃く残るのが、半島部の市街地だ。

 このエリアは、石畳の通りに世界遺産の教会や広場、歴史建造物が点在している。徒歩だけで巡る世界遺産は、カジノ抜きで楽しむマカオ観光の王道だ。

 もちろん、街の魅力は、そんな定番ルートだけにとどまらない。ふと入り込んだ路地に広がるコロニアルカラーの家並み、鳥籠を手にした人々が談笑する朝の公園、丘の上から見下ろす瀟洒な建物の連なり、湖に映り込む幻想的な夜景……。フォトジェニックな風景は、観光名所ではない日常の中にも息づいている。

 市街地を歩くなら、綿密なプランに縛られず、アズレージョ(ポルトガルの装飾タイル)の道標を気ままにたどってみるのもいい。コンパクトな街は、迷ってもすぐにリルートできるし、ちょっとした迷子になることさえ、楽しみのひとつになる。

 日中は汗ばむ陽気でも、日が暮れると風が涼しくなり、夜の街歩きも心地いいひとときに。オレンジ色の街灯に照らされた石畳の通りや、湖面に映るマカオタワーを眺めながら夜風に吹かれて歩く時間は、ディナーの後のささやかな楽しみになりそうだ。

2025.04.16(水)
文=芹澤和美
写真=SHU ITO(街、ホテル)