「異世界に入っていく感覚」を描きたい

──こうしたフィールドワークって、どのように進められるものなんでしょうか? 最初にテーマを決めて場所を選んでいくんですか?
普通はある程度調べたいテーマを設定したうえで訪れる場所を決めるらしいんですが、今回はあえて何も決めずに、まず自分が生まれ育った金沢を訪れてみることにしました。だから、言ってしまえばべつに興味がない場所に行ってるんですよね。こういう芝居をつくりたいからこれについて調べたいという目的意識もないので、最初は「こんなリサーチで大丈夫なのか?」と不安にもなりました(笑)。
ただ、東京に帰ってから道中の出来事を細かく書き出していくと、意外な出来事のつながりや共通する要素が浮かび上がってきて、芝居の設定やテーマのヒントになりそうなことがたくさん見つかったんです。そこからはリサーチもどんどん面白くなっていきましたね。
──なにか発見が広がるようなきっかけはあったんですか?
異世界に入っていくような感じ、ですかね。たとえば奥能登から能登島の方へ移動したときは山を抜けるだけで雰囲気が一変しますし、能登島にある須曽蝦夷穴古墳という古墳を訪れたときは急に音がまったく聞こえなくなる場所が出てくるなど、ちょっと異世界に入っていくような感覚、一線を越えていくような感覚があって。そんな感覚を軸にして今回の作品をまとめていけるんじゃないかと思ったんです。
──『地図にない』というタイトルともつながりそうなエピソードですね。
地図にまだない、地図にまだ生まれていないような場所に行くような感覚ですね。

──やはりこれまでの玉田企画とはアプローチが大きく変わっているような印象を受けます。なにか変化のきっかけがあったんでしょうか。
同じような世界だけを見ているような気がしてきてしまって、自分が書くものに飽きてしまったのかもしれません。自分の仕事や身の回りの環境はあまり変わらないので、普段見ている風景も変わらないし、書くことも同じようなものになってしまう。無理矢理にでも外部からの刺激を入れたほうがいい気がしていました。
──外側への関心が高まってきた、というか。
これまでは自分の身の回りの世界にある面白いことを起点としながら膨らませていくことが多かったんですが、今回は書き進めていくなかで、これも使えるあれも使えるとリサーチを通じて得られたネタが思い浮かぶようになったのは大きいですね。
2025.03.24(月)
文=石神俊大
写真=深野未季