この記事の連載
「東京での生活に飽き飽きしていたし、うんと離れたところに行っちゃおうと」
「芦屋の『パティスリーエトネ』の多田征二さん、大阪・池田の『パティスリーアテール』の新井和碩さん、みんな大下さんが連れてきてくれた。あまいもの好きのぼくと気が合うと思ったみたい。新井さんとはIUのコンサートを一緒に観に行くほど仲良くなったんだ(笑)」
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ふと思う。松本さんは、ネットワークを広げるために、自身の「風街」の地図を広げるために移住したのではないだろうか、と。東京を離れてからの松本さんは、まるでタンポポの綿毛のように、風に乗ってふわふわと、自由気ままに、心赴くままに、いろんなところへ飛んでいっている。
「それは、計算していたわけじゃないし、そうしたかったわけでもない。そもそも静かな余生を送ろうと思って移住したんだ。東京での生活に飽き飽きしていたし、うんと離れたところに行っちゃおうと。そうしたら、ひとりだけで行くことになってしまった。『え、来ないの?』って(笑)。そこからだよね」
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「だからこれも計算していたことではなかったけれど、関西であることがよかったんだと思う。関西の人だから『松本センセイじゃありません?』と、男も女もフランクに話しかけてくれる。東京で一人ぼっちだとこんなふうに広がらなかったと思うんだ」
神戸市東灘区御影1-16-15 エクセレンス御影 1F
松本隆(まつもと・たかし)
1970年にロックバンド「はっぴいえんど」のドラマー兼作詞家としてデビュー。解散後は専業作詞家に。手がけた作品は2,100曲以上にもおよぶ。
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2025.02.26(水)
文=辛島いづみ
撮影=平松市聖