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「本日のおすすめはなに? 最新作のラスク?」

「大下さん、忙しい?」

「休日だったせいか、朝はすいぶん忙しかったですね」

「夕方だとほとんど売り切れてしまうから、今日は早めに来た。本日のおすすめはなに? 最新作のラスク?」

「ラスクはもちろんおすすめですが、ベーコンエッグもクリームパンもデニッシュも、食パンもクロワッサンも、ハード系のバゲットもリュスティックも、どれも“普通に”おいしいですから、全部おすすめ(笑)」

「そう、大下さんのパンは“普通”なのがいい。毎日食べ飽きないし、添加物や保存料も入ってないから安心」

「小麦も国産です。岡山県産の小麦を使っているんです」

 大下さんは、フランスパンの伝道師、フィリップ・ビゴのもとで修行を積み、神戸北野ホテルのパン部門や、堂島ロールで有名な「パティスリーモンシェール」のブーランジュ部門を経て独立。御影に自身の店「ビアンヴニュ」を開いたのは2012年のこと。奇しくも松本さんが移住したのと同じ年だ。

「そして、大下さんの面白いところはさ」と松本さんが続ける。「彼は元サッカー少年なんだけど、ヴィッセル神戸の選手のために毎日パンを焼いていたんだ。確か、スペインの、バルセロナの選手だったよね?」

「セルジ・サンペール選手です。スペルト小麦を使ったハード系のパンを焼いてほしいと言われて。海外の人は小麦にこだわりがあるので、精製した白い小麦粉ではなく、全粒粉を使ったブラウンブレッドとか雑穀パンとか、そういうのを好んで食べるんです。なので、彼がチームに在籍していたときはずっと焼いてました。毎週とりに来てくれてたんですよ、1週間分のパンを」

 そんな大下さんと知り合ってから、松本さんはパティシエの知り合いが増えたという。

2025.02.26(水)
文=辛島いづみ
撮影=平松市聖