「捜している子だといいね」
「そうですね」
風が冷たくなってきた。昼間はまだあたたかいけれど、日が暮れてくると一気に冷える。この猫がもしミーちゃんじゃなかったら、夜中どこで寒さをしのぐのだろうと心配になった。
「あ、あの人かな?」
山吹が立ち上がる。ひとりの女性がケージを持って駆けよってきた。
「沢田さんですか?」
「ああ、お電話をくださった方ですか?」
「そうです。あの、この子、ミーちゃんに似ていませんか?」
沢田という女性は、五十代くらいだろうか。少しよれたロンTを着ていて、とても痩せていた。
「ああ、ミーちゃんです。よかったあー」
沢田さんはケージを置いてミーちゃんにそっと近づき、抱き上げた。両脇から手を入れて持ち上げると、ミーちゃんはだらりと長く伸びた。特に逃げようともせず、おとなしく沢田さんに抱えられた。
「どうして逃げちゃうの。もう……心配したんだから」
沢田さんはミーちゃんに頬ずりをしてから、そっとケージにいれた。
「このたびは本当にありがとうございました。お礼できるものがなくて……」
「いやいや、いいんです! 見つかってよかったですね」
「そうですよ。お礼なんて、気にしないでください」
「すみません。本当に、ありがとうございました」
何度も頭をさげてから立ち去ろうとした沢田さんが「あ、そうだ」と立ち止まった。
「こんなものしかありませんが、もしよかったら」
そう言って、ポケットから近所のお寿司屋さんのクーポン券を出してきた。
「あ、よっちゃん寿司」
山吹が嬉しそうに声を出す。
「ミーちゃんを捜すチラシを配っていたときにお店の方にいただいたんですけど、お寿司なんて食べに行きませんので、もしよかったら……」
「ありがとうございます! ちょうだいします」
ご好意に甘えていただくことにした。
その一瞬、あれ……と気になるものを目にして、少し動揺する。見間違いか……。
「本当にありがとうございました」
2024.11.19(火)
文=秋谷 りんこ