アメリカンショートヘアはセミコビーというタイプの猫だから、ミーちゃんと比べると少し小柄でずんぐりしている。三毛猫のミーちゃんは、手足の長い日本猫だった。いろんな種類がいて、どの子も個性があってかわいい。
「ちょっと待ってね。手を洗ってくるから」
いつもより念入りに手を洗い、服も着替えてからアンちゃんを抱っこする。猫の病気には感染するものもあるから、気をつけないといけない。
「お留守番ありがとう」
アンちゃんはゴロゴロとのどを鳴らし、私のあごのあたりに額をおしつけた。
「アンちゃん、脱走したりしちゃ絶対にダメだよ」
銀色に輝くつやつやの毛をもじゃもじゃと撫でながら、ふいに寂しい気持ちになる。アンちゃんがいなくなってしまったら……想像しただけで心配でたまらない。
「どこかに行ったりしちゃ、嫌だからね」
ぎゅっと抱きしめると、もぞもぞともがいて抗議された。
「ごめん、ごめん」
そっと床におろす。ボサボサになった背中の毛を、撫でて整えてあげた。
「今日こそラーメン、リベンジしましょうか」
数日たった日勤後、山吹が声をかけてきた。外は細かい雨が降っている。あついラーメンに心惹かれた。
「いいねえ、行こう」
雨のなかをのんびり歩き出す。職員駐車場を突っ切ろうとしたときだった。
「あれ! あそこにいるのミーちゃんじゃないですか」
車の下で香箱座りをしてじっと雨を眺めているのは、たしかにミーちゃんだった。
「また逃げちゃったのかな」
山吹が小走りに近寄る。
「おーい。ミーちゃん、沢田さんが心配するよ~……あ!」
山吹が大きな声を出す。
「え、どうしたの」
「卯月さん、ミーちゃんケガをしているかも」
「え!」
「見てください。血が出てる」
雨宿りをしているミーちゃんの、左の額に赤い血のようなものがついていた。
「本当だ。血みたい」
「ミーちゃん、ちょっとおいで」
山吹が手を伸ばしても、ミーちゃんは逃げなかった。山吹は傘を閉じてしまったので、私の傘に一緒にいれてあげる。服が濡れるのもかまわず山吹はミーちゃんを抱き上げた。
2024.11.19(火)
文=秋谷 りんこ