山吹と顔を見合わせる。
「ミーちゃんの血じゃないってことは、誰かほかの人の血ってこと?」
「この前お会いした沢田さんでしょうか?」
「息子さん、体格よかったよね」
「……え、まさか息子さんが沢田さんを?」
「いや……他人様の家のことをそんな風に言うのは失礼なんだけど」
「でも、家のなかで誰かが出血してるってことですよね?」
「そう……だよねえ」
山吹は青年が去っていったほうをじっと見て、
「行きましょう!」
と言った。
「え!」
「沢田さんの家まで行きましょう! 余計なお世話かもしれないけど、けがをしている人がいるかもしれない。もしかしたら、何か力になれるかもしれませんよ!」
私はうなずいて、ふたりで駆け出した。
青年は、大きな傘が特徴的ですぐに見つけられた。こっそりあとをつける。
「ミーちゃんの扱いはやさしい感じでしたから、あの男の子が、とは思いたくないですね」
「うん。でも、沢田さんはすごく華奢だったから、息子さんは暴力を振るうつもりはなくても、ちょっと手があたっちゃっただけでけがをすることもあるんじゃない?」
「……そうですね。それか、息子さんはミーちゃんを迎えにきてくれるってことは沢田さんを嫌ってはいない。だから実は旦那さんがDVをしているとか?」
「考えだしたらキリがないね」
五分も歩くと、青年はある一軒家にはいっていった。大きいけれど古い建物で、庭木が荒れている。表札には「沢田」と書いてあった。
「ここですね、ミーちゃんのおうち」
「けっこう近かったんだ」
「で、どうしましょうか。家までついてきちゃいましたけど、ここで何ができるってわけじゃないですよね」
「うーん、そうだね。せめて沢田さんのお母さんのほうにお話を聞ければ、安心なんだけど……」
余計なお世話とわかっているけれど、どうしてもおせっかいの虫がさわぐ。
そのとき、ガラガラと音が鳴って家の窓が開いた。そこから、するりと身をひるがえして、ミーちゃんが出てきた。
2024.11.19(火)
文=秋谷 りんこ