大人気シリーズ第二弾『ナースの卯月に視えるもの2 絆をつなぐ』の第1話を無料公開!
完治の望めない患者が集う長期療養型病棟に勤める看護師・卯月咲笑。彼女は患者の思い残しているものが視える、という不思議な力を持っている。ある日、皆の頼りになる師長・香坂さんの背後に、見知らぬ男性の姿が浮かんでいて――
1 会いたい人がいる夜に
パリッとした白衣に袖を通す。ロッカーの鏡をのぞき、髪を耳にかけてピンでとめる。清潔な白衣には、着ている者の心持ちをかえる力があると思う。気持ちがしゃんとするし、背筋が伸びる。
ほかの看護師たちもみんなこの更衣室で着替えて、ひとりの人間から看護師になっていく。
月曜の朝、さあこれから日勤勤務だ。毎週月曜日は教授回診があって、薬や治療方針の変更が多いから、ほかの曜日より忙しくなる。
よし、と小さく声に出し、気合を入れた。
私の働く青葉総合病院は横浜市の郊外にあり、このあたりでは一番大きな病院だ。入院病棟と外来があり、救命救急センターもあるし、手術の設備も充実している。訪問看護ステーションも併設されているから、地域との連携もしっかりしている。横浜駅から電車で三十分くらいのところにあり、周囲には自然も多い。
「おはようございまーす」
数個離れたロッカーに後輩の山吹奏が来た。大福みたいにふっくらした白い頬に、栗色のボブヘアが似合っている。
「卯月さん、今日仕事なんですね。大学院って週に何日くらいあるんでしたっけ?」
鮮やかなオレンジ色のブラウスを脱ぎながら聞いてくる。
「週に二日くらいなんだけど、二年生になったから課題がすごい増えるらしいんだよね。それが大変そう」
「やっぱり専門看護師への道は楽じゃないですか」
「まあね。でも仕事をパートにしてもらえたからまだ良かったかも。フルタイムじゃきつかったな」
「卯月さん、八年目ですよね。ちゃんと自分の進路決めててえらいですよね。私ももう五年目だから、今後のこと考えないと」
2024.11.08(金)