自信満々に笑う山吹と一緒に、猫を残して歩き出す。駐車場を出るときに振り返ると、猫は前肢で器用に顔を洗っていた。

「あれ? 卯月さん、これ見てください」

 ラーメン屋に向かう途中、山吹が見つけたのは電柱に貼ってある迷い猫のチラシだった。

【猫を捜しています。名前:ミーちゃん。三毛猫のメス。特徴:背中の黒い模様がハート形に見えます。〇月〇日に脱走しました。お心当たりのある方はこちらまでご連絡ください。沢田】

 写真と電話番号が載せてあり、それはさっきまでかわいがっていた駐車場の猫に似ていた。

「え、この子、駐車場の三毛猫ちゃんじゃない?」

「似てますよね」

「背中にハートマークなんてあったかな」

「それは気づかなかったですけど……ちょっと戻ってみます?」

「そうだね。まだいるかもしれない」

 私たちはチラシの写真をとって、急いで駐車場へ引き返した。

「ああ、まだいますよ。よかった。ねえ、君は沢田さんちのミーちゃんなの?」

 猫は毛づくろいしていた場所から動いておらず、横になってリラックスしていた。

「ちょっと失礼するよ。あ、言われてみればちょっとハート柄っぽいですよ」

 山吹が猫の背中をそっと確認している。私も写真と見比べてみる。たしかに、顔も似ているようだ。

「飼い主さんに電話してみましょうか」

「そうだね」

 猫とはいえ、飼い主にとっては大事な家族だ。私だって、もしアンちゃんが逃げてしまったら、と思ったらぞっとする。

 山吹がスマホを耳にあてる。

「もしもし、あの、沢田さんの携帯電話でよろしいですか? 迷い猫ちゃんのチラシを見たんですけど……あ、はい。それで、もしかしたらミーちゃんかなっていう子がいるんですけど。そうです、今ここに」

 青葉総合病院の職員駐車場に似ている猫がいると伝えると、飼い主の沢田さんはすぐに来るという。患者さん用の駐車場じゃなくて職員駐車場のほうです、と山吹が念をおして、電話を切った。すぐ近所に住んでいるらしい。

2024.11.19(火)
文=秋谷 りんこ