今までも猫はかわいいと思っていたけれど、飼い始めてからは、かわいいという言葉じゃ語りつくせない愛おしさを感じている。インターネットやテレビでも、猫が出てくるとつい注目してしまう。

「仕事のあと、また見に行ってみましょう」

「そうだね」

 更衣室で白衣に着替えて、病棟へ向かう。勤務が終わるまでは、猫のことはいったん忘れて仕事に集中しなければ。

「あ、あそこにいますよ」

 山吹の指すほうを見ると、駐車場のはじ、車の往来のない芝生の上で、毛並みの良いかわいい三毛猫が堂々と横になっていた。仕事終わり、日が暮れ始めていて、街灯が猫を照らしている。

「かわいい。毛もきれいだね」

「そうなんです。野良じゃないですよね」

 ゆっくり近づいても、猫は逃げなかった。山吹がそっと手を伸ばすと、猫は体を起こしてニオイを嗅いだ。

「ほら、慣れてます」

「ほんと。逃げないね」

 山吹のことを、エサをくれる人だと覚えているのか、猫は立ち上がってしっぽをぴんと立てた。

「お食べ」

 山吹がキャットフードを芝生の上に出すと、猫はカリカリといい音をたてて食べ始める。

「人間の前で普通にごはん食べるんだから、やっぱり野良じゃないですよね」

「普通、もっと警戒しそうだもんね」

 しばらく夢中で食べていた猫は、満足したのか少量を残して食べ終えた。少し離れたところで体を横たえ、おもむろに毛づくろいを始める。お腹まわりは充分な肉づきがあるから、やっぱり飼い猫のように思えた。

「猫って、本当に気まぐれだよね」

 あまりに自由なふるまいに思わず笑ってしまう。

「いいですよね、気ままで。癒されるわ~」

 夕暮れの気持ちいい風がふいて、並木のイチョウがさわさわと揺れた。

「猫ちゃんはお腹いっぱいになったみたいだから、私たちも何か食べに行きましょう」

「そうだね」

「昨日、遠野と行ったラーメン行きます? おいしかったですよ」

「え、山吹、二日連続じゃないの?」

「ぜんぜんいけます!」

2024.11.19(火)
文=秋谷 りんこ