二者択一の大まかな指針は示しましたが、神が宿るのは細部です。政争の中で政子がどう変容していくか、とくに実家である北条家とどう関わっていくのか、そこに注意しながら読むことをおすすめします。政子の悲哀と決断を確認しながら読んでいくと、作者は最後に、もう一つ重大な仕掛けを用意しています。その中身を書いてしまっては台無しなので、拙い解説はここで筆を措きます。それにしても、伊東潤という方は、読者を飽きさせません。ストーリーテラーとしての力量、また歴史事象の読解力の深さに感嘆します。

 味読に耐える名著です。つまらない歴史研究にまさる、骨太な仕事です。北条義時を主人公とする大河ドラマと比べてみると、一層の味わいがあるに違いありません。

夜叉の都(文春文庫 い 100-7)

定価 1,100円(税込)
文藝春秋
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2024.08.08(木)
文=本郷和人(東京大学史料編纂所教授、文学博士)