二〇一九年五月二七日、東京都内で共同記者会見に臨んだトランプ大統領は安倍首相の隣で胸を張った。

「二〇一八年、日本はアメリカの国防装備の世界トップの買い手の一つだった。そして今まさに日本は新たに一〇五機のF35ステルス航空機を購入すると表明した」

 F35というのは、ロッキード・マーチン社の製造する戦闘機であり、日本は合わせて一四七機の購入を決めており、これはアメリカを除けば世界最多だ。

 米国からの装備品の購入について、安倍は首相として衆参の本会議で次のように述べている。

「安全保障と経済は当然分けて考えるべきですが、これらは、結果として米国の経済や雇用にも貢献するものと考えています」

 利にさといトランプ大統領の自尊心を満足させるため、安倍政権下でアメリカからの“爆買い”は続き、莫大な国費が投入されている。

 F35と日本、米国、中国について、真山は小説『墜落』(二〇二二年六月、文藝春秋)で、それを素材にしたに違いない架空の物語を著している。その随所に、この作品『ロッキード』の取材によって蓄積したと思われる具体性に富む分厚い叙述が見られる。つまり、ロッキード事件の取材を、ノンフィクションだけに終わらせるのではなく、小説作品にも詰め込んでいる。

 ロッキード社はアメリカの情報機関CIAと密接なつながりのある軍需メーカーとして、今も、自衛隊の対潜哨戒機や戦闘機の製造元であり、つい最近も、現場配備の見通しは不明であるものの、陸上配備型イージス・システム(イージス・アショア)のレーダーを日本に売り込むのにいったんは成功している。中国やロシアをネタにしたロッキード社から日本への売り込みは今も続いている。

 だからこの作品『ロッキード』は、五〇年前の歴史とその謎を探究する書であるだけでなく、現在、そして近い未来の日本、米国、中国をめぐる謀略の予言書にもなるのかもしれない。

ロッキード (文春文庫 ま 33-5)

定価 1,430円(税込)
文藝春秋
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2024.01.10(水)
文=奥山 俊宏(上智大学教授・元朝日新聞記者)