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活火山のふもとへ
地球はうごめいている。
大陸はぶつかり、離れ、山は盛り上がり、崩れ、海面は上がり、下がる。
北海道の脊梁をなす日高山脈は、白亜紀後期から新生代古第三紀に形成された。アバウトに言い換えれば数千万年前のことだ。そこに千島列島を造る千島火山帯と、日本の活火山の三分の一を従えながら奥羽山脈を造る那須火山帯が合流し、いまの北海道島となった。人や文化の出会いが堆積する北海道は、大地そのものも出会いでできている。
今回の旅で、ぼくは那須火山帯の北海道側をうろうろしている。奇岩や崖が波に洗われる火山性海岸は、見ごたえある独特な景観を作っていた。ただし海面下にはたくさんの岩礁が潜み、潮流や霧が加われば、たちまち航海の難所に変わる。神威岬灯台はまさに岩だらけの場所にあった。鴎島灯台は付近での局部的な火山活動が造ったらしい小島に建っている。
旅の三日目、これから訪れる恵山岬灯台はズバリというべきか、活火山のふもとにある。そう考えれば、うごめく地球の現在形を示す場所に灯台は建っている。
その日、函館朝市で朝食をいただき、出されたおかずに熊肉があって驚き、昭和七年創業というコーヒースタンドで食後のコーヒーを楽しみ、海辺に座り込む石川啄木の像を眺めるなど、恒例となった寄り道をしっかりこなし、いよいよ車で出発する。
車中では阪口さんがお手製のフリップを取り出し、とつぜん灯台クイズ大会が始まった。ぼくたちは賞品のサイコロキャラメルを獲得すべく、難問に頭をひねり、サービス問題に飛びつき、おかげでちっとも退屈しなかった。
一時間ほどで恵山岬に到着した。車を降りると空はどんよりと曇り、夏なのになんだか肌寒い。岬の周囲は崖。はるか下にある海岸では大小の岩がごろごろ転がり、荒い波が白く砕けている。風も強い。背後には恵山がそびえ、ふだん煙を噴き上げているという山頂は低い雲に隠されている。クイズで和気あいあいとしていた車中から一転、不穏な雰囲気である。
そんな景観の中に、恵山岬灯台は建っていた。ずんぐりした白い塔で、灯室の下にはバルコニーが巡らされている。荒涼たる海辺で静かに航海の安全を守ってきた姿は、威厳にあふれていた。
2023.12.14(木)
文=川越宗一
写真=橋本篤
出典=「オール讀物」2023年12月号