●登場人物が感情をむき出しにする独自の作風
――売れない女優と監督の痴話ゲンカをシニカルに描いたコメディ『ウルフなシッシー』は、17年の「TAMA NEW WAVEコンペティション」にて、グランプリとベスト男優賞、ベスト女優賞をトリプル受賞されます。
個人的には『BAD SAMURAI FOREVER』みたいな作品も撮りたかったのですが、今度はあえて、ラブストーリーを撮りました。それが評価されて、劇場公開にも繋がりましたし、「アストラル・アブノーマル鈴木さん」の話もいただきましたし、とても有難いことでした。
自分にとっても、大きな転機になりましたし、「今の自分に求められているのは、こっちの路線なのかも?」とも思えるようになりました。
――後に「ディレクターズ・カット版」として劇場公開もされた、YouTubeドラマ「アストラル・アブノーマル鈴木さん」(18年)。本作では主演に松本穂香さんを迎え、彼女が一人二役を演じ、登場人物が感情をむき出しにする大野監督独自の世界観が描かれました。
『ウルフなシッシー』を観たプロデューサーさんから声をかけられて撮ったのですが、最初はあくまでも全17話をYouTube配信のみという話で作っていました。松本さんを前面に出した企画としてシナリオも書きました。
――そして、シンガーソングライターの女性と彼女のマネージャーを務める男性の恋の行方を描いた『辻占恋慕』(つじうられんぼ)(22年)を撮られ、カルト的人気となりました。
このときも「アストラル・アブノーマル鈴木さん」のプロデューサーさんから声をかけていただき、音楽をテーマに企画を考えました。コロナ禍などもあって、主演の早織さんには3年以上、この作品に付き合ってくださり、とても申し訳ない気持ちでいっぱいなんです。
2023.08.11(金)
文=くれい響
写真=平松市聖