この記事の連載

 うつわのある暮らしには憧れるけれど、どんなアイテムが使いやすいんだろう……? うつわを手軽に、上手に暮らしに取り入れるためのヒントを求めて、達人たちを訪ねました。


◆Vol.5 お話を聞いた人 柳田栄萬さん

 1972年、福岡県生まれ。東京・水道橋のうつわギャラリー「千鳥」店主。国際中医薬膳師の資格を持ち、料理家として活動するうち食器に目覚める。2008年に同店をオープン。「素朴で温かみのある、料理がおいしく見える、使い込むほどに美しくなるうつわ」をテーマに、幅広いタイプのうつわを取り扱う。


最初って個性の強いうつわを選びがちなんですね

 大前提として、実際に見て「いいな」と、ときめいたものを持ってほしいという思いがあります。けれども最初ってシンプルなものより、ちょっと変わった感じのもの、個性の強いうつわを選びがちなんですね。すると買ったはいいが使いにくく、あまり出番がない……なんてことにもなりがちです。

 ですから「自分が作り慣れている料理を盛ったときのイメージができるかどうか」を考えてみるといいかと。よく作る料理がパッとイメージできるうつわは、間違いなく活躍してくれます。

 「何から買ったらいいか」と迷われるお客様は多いです。そういうとき私はよく「飯碗を選ばれてはどうですか」とお伝えします。ごはんを盛るうつわは毎日使うものですし、手に取っている時間も長く、唇に直接触れることもある。人間と非常に近いところにあるうつわで、食器の中でもかなりパーソナルな存在だと思うんです。

 飯碗って「正解」がないんですよ。よく食べる方で、大きい飯碗を好む人もいれば、小さめのに盛ってお代わりしたい人もいる。軽いことが最優先の人も。私は深めの飯碗が好きですが、それはずっと熱々のまま食べたいから。深さがあると底のほうのごはんが冷めにくいんです。逆に熱いのが苦手な人は、浅く平たい飯碗を選ぶといい。手ざわりもぽってりと厚いものを好む人もいれば、薄く繊細なものを好む人もいる。食の習慣や好みによって、飯碗の選び方もかなり違ってきます。

 ですから選ぶときは、いろいろな飯碗を実際に手に持って、使うときのことを想像してください。裏を返すと高台(食器の底の支えとなる部分、主に輪形)がありますが、ここに指をひっかけて持つことが多いかと思います。指がしっかりと入る、深さのある高台が持ちやすいんです。浅いと、洗うときなどに落としがち。高台の部分は釉薬がかかっていないので、ざらっとした感触になるんですが、この感じが気にならないかのチェックもしてみるといいですよ。

 飯碗はひとつと限らず、いくつか持っていると楽しい。白いごはんと炊き込みごはんで飯碗を替えるのもいいし、季節によっても合うものが変わります。夏はひんやりした雰囲気の磁器のものが合うし、冬はほっこりと温かみのある陶器のものがいいですね。あとは、納豆などをのっけることが多い人は口径の広い飯碗が使いやすいです。

 これは「しのぎ」という技法が用いられたうつわなんですが、作家さんが手で1本1本けずって模様にしています。こうすると、デザイン的な意味があるだけでなく軽くもなる。だから持ちやすい。大きめの飯碗ですが持ちやすさも兼ね備えた作品なんです。

2023.07.30(日)
文=白央篤司
撮影=平松市聖