「わかった」と、ナオキがノートPCを操った。「望遠鏡のコントロール、タブレットに渡した。どうぞ」

 言い終えるのと同時に、タブレットの画面に望遠鏡の操作パネルが現れた。マモルが矢印をとんとんと叩くと、わずかに遅れて理科棟の屋上に設置してある天体望遠鏡が動く。

 普段はその目的通り夜空に向けて星を観測している望遠鏡だが、昼間は地上に向けて、映像を録画していることも少なくない。錦江湾の向こうで煙を噴き上げる活火山、桜島は格好の素材だ。

 いい映像が撮れた日は、寮の下級生たちがコマごとに映り込む鳥や虫、変な形の雲、チラリと光る船の反射などのゴミを取り除いてから、蒼空寮のアカウントでストックフォトにアップロードする決まりになっている。最新型ではないが、高価な望遠鏡を使わせてもらっている上に、毎日のように撮影しては作業する手間暇をかけているおかげで品質は悪くない。月に二千円分ぐらいは売れていて、寮生活を楽しく、快適にするために使われている。貯めた金は、宅配ピザとおやつ代に消えていく。

 マモルが角度を調整していると、学校指定の体育用ジャージに身を包んだ喜入梓が画面を覗き込んできた。

「こんな写真撮って、何に使うの? 寮の広報?」

 梓は一学年八十人の理数科に五人しかいない女生徒の一人だ。

 誰が伝えたのか知らないが、マモルたちが入寮する一年生たちを望遠鏡で観察していることを知った梓は、女子専用下宿の暁荘から、普段着のままでやってきた。

 男子寮の蒼空寮には、食堂まで女子を入れてもいいルールになっている。かつては女子用の部屋もあったので女子トイレもあるし、エアコンも効いていて学校の高速無線LANも使えるので、暁荘に寄宿している理数科の女生徒たちは、自習にやってくることが多いのだ。

 もっとも、勉強をするでもなく入り浸っている女子は梓ぐらいしかいないのだが。

「教えてよ。何に使うのよ」

「説教用のネタだよ」

「ネタ……?」

2023.07.20(木)