『オービタル・クラウド』で日本SF大賞、星雲賞、『ハロー・ワールド』で吉川英治文学新人賞を受賞するなど、SF小説の旗手として注目を集める藤井太洋さんの最新刊がついに刊行になります。
最新作は、VR世界大会を舞台とした青春小説です。
そんな『オーグメンテッド・スカイ』(文藝春秋)より冒頭を紹介します。
どうぞ、お楽しみください!
I 南郷高校蒼空寮
食堂のテーブルに置いたタブレットには、県道から分かれた急坂の桜並木を登る生徒たちが映し出されていた。はらはらと落ちる桜の花びらを額に貼り付けた少年たちは、みな一様に大荷物を抱え、親に連れられて、あるいは親を連れて歩いてくる。
鹿児島県立南郷高等学校の理数科に合格し、親元を離れて蒼空寮で高校生活三年間を送る新入生たちだ。
タブレットの正面に座り、後輩になる少年たちを見守っていた二年生の倉田衛は食堂の時計を見上げた。
「やっと来たね。平川駅の下りは、十二時三十五分だったっけ」
「やっど」と、わざとらしい鹿児島弁で答えたのは、奄美の島言葉を話すはずの結城一郎――ユウキだった。「たった八百メートルに十五分もかかっとらあよ」
マモルとユウキに続いて、タブレットを囲んでいた同学年の寮生たちも口を開く。
「はげぇ、可愛いかねえ!」
「全くだ。俺らもあげん可愛がったっとかい?」
「お前は生意気かったがなあ」
「お前に言わるっとかよ」
「ともかくよ。はげぇ、我きゃぬやっとぅ後輩ぬできゅんちな(うわあ、俺らもようやく後輩持ちかよ)。信じられんがな」
待ち侘びた後輩たちの姿に顔をほころばせる二年生たちは、思い思いのお国言葉で照れ臭さと喜びを分かち合う。坂を登ってくる新入生たちも、きっと同じように色々な鹿児島の言葉を話すだろう。
南郷高校は各学年八クラス、二〇二四年度の生徒数は九百五十四名に達する大型高校だ。一組から六組までの普通科には鹿児島市内に住む生徒たちが通ってくるが、学区制限のない残りふたクラスの理数科には、鹿児島市外と離島から成績優秀な中学生たちが集まってくる。
2023.07.20(木)