「スマホ見ながら歩くなとか、靴をぞろびって(引きずって)歩くなとか、腕時計は校則違反だ、とか」

「アホらしい」と、梓は盛大なため息をついた。「あんたたち、今年も説教やるの?」

 声を上げた梓に、三年生たちが振り返った。

「そうだよ喜入さん」

「伝統だからさ。見守っててよ」

「寮生みんなかっこいいだろう? 説教で鍛えるおかげだよ」

 梓は一段トーンを上げた声で「そうなんですねー」と答えると、振り返って鼻の上に皺を寄せた。

「あんたたち。二十一世紀になって何年経つと思ってるわけ?」

「二十四年」

「そんなこと聞いてるんじゃないし、だいたい、数え方間違ってるでしょ。西暦は序数」

「あ、そうか。二十三年だ」

「そうじゃなくて、時代遅れだって言いたいわけ。威張り散らして何の意味があるの、って言ってるの」

 マモルは目を逸らした。

 坂を登ってくる新入生たちは、今夜、手厳しい通過儀礼を受ける。

 三年生の風紀委員たちが、新入生を集会室に集めて正座させ、脅し、先輩・後輩の関係を叩き込むのだ。

 蒼空寮の共同生活は同じ学年の生徒が生活を分かち合うルームシェア形式ではない。ルーツが旧制高校のバンカラ寮なのか士官学校なのかは知らないが、三年生と二年生、一年生が同じ部屋に入り、下級生が上級生に従う形式だ。当然のことながら、そこには厳しい上下関係と規律ある生活が求められる。

 起床は朝六時。大音量の音楽で叩き起こされた寮生たちは、校庭まで全力疾走して、五十回の腕立て伏せとスクワットで体を温め、掛け声と共に八百メートルの運動場を二周走る。

 決して軽くはない運動を終えたら、次は朝食だ。食事の後は二年生が洗濯などのハウスワークを行っている間に、一年生は食器を片付け、寮を清掃してから登校する。ゼロ校時から八校時まで続く理数科のカリキュラムを終えて帰寮するのは十八時。そこから早い夕食をとって風呂を浴びると、二十四時までは私語の禁じられる学習時間だ。

2023.07.20(木)