5人の選考委員、阿部智里さん、辻村深月さん、森絵都さん、森見登美彦さん、米澤穂信さんに「挑戦状」を叩きつけ、受賞を勝ち取った森バジルさん。読者だけが理解できる奇想天外な構成。何を書いてもネタバレになる『ノウイットオール あなただけが知っている』を、著者自身が解説します。


 
 

同じ街・同じ時代を舞台にした、五つの異なるジャンルの短編からなる短編連作。

そのアイディアを思いついたのは2022年1月、宮崎キネマ館で「ラストナイト・イン・ソーホー」のラストシーンを目にしたときだった。とてつもなくホラーチックでファンタジックな体験をした主人公の下宿先が最終的に大火事になってしまうという結末で、その大火事を消すために水を撒く消防隊員が画面に見切れていた。

主人公にとっては劇的なラストシーンであっても、消防隊員の彼にとっては日常業務の中で遭遇する火事の一つでしかない――そこからイメージが浮かんだ。

短編連作、同じ街で同じ時間を過ごす人たちの話、話数は五話、一編ごとにジャンルを変える。五つのジャンルは自分の好きなジャンルで。

そういう考えで、五つの短編を作った。

●第一章 推理小説 「探偵青影の現金出納帳」

一発目はミステリ。しっかり尖った探偵を描きたいと思ったので、ブラック・ジャックみたいに超高額な依頼料をつきつける、というコンセプトにした。白黒の髪の名探偵と大学生の助手が、暴力団員の依頼を受けて、顔のない死体の殺人犯を推理する話。 タイトルは「探偵」という単語とお金に関するワードを入れたかったので。

●第二章 青春小説 「イチウケ!」

二発目は青春、あえてカタカナで言うならジュブナイル。青春小説と恋愛小説には何かモチーフが欲しい、と思っていた。なら自分の好きなものを描こう、ということで漫才を題材に。M-1グランプリに挑む高校生男女コンビの話。

タイトルは〈青春小説といえばカタカナ四文字〉というイメージが僕の中に強くあったので。伊藤たかみさんの「ぎぶそん」の影響だと思う。

2023.07.17(月)