『臨死!! 江古田ちゃん』でデビューした漫画家の瀧波ユカリさんは、2010年に出産。この13年の間に「妊娠出産し、子どもを育てること」を取り巻く環境はどのように変化してきたのか。そして、瀧波さんが現在マンガ『わたしたちは無痛恋愛がしたい ~鍵垢女子と星屑男子とフェミおじさん~』で、女性が生きていく辛さを真っ正面から描く意義とは?


「育児の辛さが書かれていなくて物足りない」

 2004年に『臨死!! 江古田ちゃん』でマンガ家デビュー以来、言語化しづらい「女性の今」を絶妙にすくいとり、コミックで可視化してみせてくれる瀧波ユカリさん。エッセイ『はるまき日記』では初めての育児に奮闘した1年間を綴り、その娘のはるまきちゃんも、今春から中学生になった。

「中学校に入ったらもう何も心配ないかと思ったんですけど、実際は全然そんなことなくて、心配にきりがないです。子どもを産んだ時点では、母としての経験値は0じゃないですか。こんなときにはこういう言い方がベターだとか、ここは怒るところだとか、自分の子どもの取扱説明書みたいなものが、12年経ってようやくできたぐらいな感じです。これがまた違うタイプの子ども相手だと、同じようにはいかないんでしょうけど」

 この12年の間に、2016年には「保育園落ちた日本死ね」発言が話題となり、「ワンオペ育児」という言葉が「2017ユーキャン新語・流行語大賞」にノミネートされるなど、それまであまり語られることのなかった育児の大変さが、世の中でクローズアップされるようになってきた。

「私は『はるまき日記』を育児観察的な気持ちで、面白いことを書きたくて始めたので、辛い話ってあまり載せていないんですけど、『辛いことが全然書いてなくて物足りない』という読者のコメントもあったので、おそらくそうした辛さの発信への需要は当時からあったんでしょうね。娘を産んだ2010年頃は『子育てって大変』という情報は今ほど聞かれなくて、知らないがゆえに初めての育児もそれほど怖くなかったけど、もし今だったら、絶対に辛いこともがっつり書きます」

 マンガの世界でも、女性の辛さに正面からスポットライトを当てる雰囲気は、つい最近までなかったと瀧波さんは言う。

「たとえ焦点を当てたとしても、サブのストーリーに置かれがち。女性として生きる上でのいろんな生きづらさを物語の中心に据えることは難しかった。だから、読み手の感性が広がってきたのかもしれないですね。マンガの中にもリアルが欲しいし、辛いことや苦しいこと、社会に繋がるような痛みも、読み手が受け入れられるようになったのかなと思います」

2023.06.25(日)
Text=Yoko Hara
Photographs=Wataru Sato, Ichisei Hiramatsu

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※この記事のデータは雑誌発売時のものであり、現在では異なる場合があります。

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