娘への心配は終わりがない
思春期にさしかかり、日々成長していく娘さんに、母として瀧波さんが伝えたいことがたくさんあり、ついつい話が長くなってしまうのだとか。
「一人暮らしをしても生きていけるように料理も教えなきゃいけないし、だけど身につけた家事技術を他人のケアに搾取されたくはないし。礼儀作法も教えたいし、ジェンダーの話もしたい。女の子がなんとか世の中をサバイブできるように育てるための、情報量が多すぎるんですよ。子どもが何歳になっても安心できない、ああ、死ねないって。母になって後悔することがあるとしたら、そういうところですよね。心配に終わりがない」
そんな瀧波さんが、親子の関係性において大切にしていることはあるのだろうか。
「友だち親子っていうほどフラットなのもどうかと思うけど、親が強権的なのもよくないと思うんです。親って、こちらが権力を持っていることを自覚するまで結構時間がかかるし、それをふりかざさないよう自制するのも案外修行だなって。例えば親子で言い合いになって、『言うこと聞かないなら、日曜日に遊びに連れて行くのはやめよう』とかって軽く言えちゃうのも、それは親だけが決定権を持っているからで。人間と人間がいれば力関係って必ず発生するので、親の立場から、そこは意識するようにはしてますね」
「無痛分娩の方がいいよ」
では、瀧波さんにとって「母とは何か」と問われたら?
「うーん、なんでしょう。自分で産んでいなくても、育てていれば母だし。うちは夫がごはんを作り、仕事は私がメイン。ジェンダー的に考えると、今うちはどちらが母でも父でも、分ける必要がない状態なんですよね。最近なんてうちの子、間違って私のことお父さんって呼びますから。でも、昔ながらの温かい、優しい母のイメージも否定したくない。自分の人生も大事にするのが今の母親像っていうんだったら、それも母だし。私の中では『母』って言葉は、本当に無色透明ですね。娘に対して、母としての私の経験からしか言えないことがあるとすれば、『無痛分娩の方がいいよ』くらいかな(笑)。それ以外はなんでも、私でも夫でも大丈夫です」
瀧波ユカリ(たきなみ・ゆかり)さん
マンガ家。文筆家。北海道出身。2004年に4コマ漫画『臨死!! 江古田ちゃん』でデビュー。Webマンガサイト「&Sofa」にて、『わたしたちは無痛恋愛がしたい ~鍵垢女子と星屑男子とフェミおじさん~』を連載中。
2023.06.25(日)
Text=Yoko Hara
Photographs=Wataru Sato, Ichisei Hiramatsu