ディープな秘密の花園
ビジネス書や理工書(特に建築書)フロアも面白いのだが、平井さんの担当である1階文芸書フロアを案内していただいた。
話題の新刊書コーナーには、芥川賞、直木賞作家の最新作や、ベストセラーの単行本を押さえるのは当然として、金井美恵子さん、いとうせいこうさん、丸谷才一さん、梨木香歩さんといった著者の近刊をしっかり並べている、渋い。隣は、ずらっと棚1本が著名作家のサイン本。最近文庫化された作品のハードカバーを揃えているのも特徴だ。本好き垂涎の売り場である。
だが、そこは入り口に過ぎない。売り場の奥に入ってみよう。「探偵小説」や「幻想文学」(ミステリーやファンタジーではないところがツボ)の棚は、専門の古書店でもここまでは揃っていないというほど函入りハードカバーが並ぶ。ボルヘス、バタイユ、トールキン、夢野久作、江戸川乱歩、岡本綺堂、種村季弘……濃い(もちろん、最近の本格ミステリーやファンタジーも充実している)。平井さんによると、このあたりのマニアな本は、出張などで上京した折りにまとめて買っていくファンが全国にいるので、在庫を切らさないようにしているとのこと。
とても太刀打ちできないので、比較的勘が働くシャーロック・ホームズ関連本の棚を見てみた。ベネディクト・カンバーバッチ(ベネ様)主演で最近人気のBBCのドラマ『シャーロック』の解説本から、日本を代表するシャーロッキアン(ホームズ研究家)の大部な事典、オクスフォード大学の注釈入りの全集、後世の作家が書いた本格パロディ本、ホームズ物に取材したレシピ集まで、おそるべし八重洲ブックセンター本店。ベネ様が気になって、ホームズに興味を持ったら、まずこの売り場を訪ねてみるといい。
鉄筋コンクリートとアスファルトに覆いつくされたような東京だが、ミツバチの目には隠れた秘密の花園がわかり、巣箱の中で密かに情報交換されているらしい。八重洲ブックセンターのディープな書棚にも、きっと他では見られない濃厚で素敵な本があって、手に取られるのを待っているに違いない。
【CREA WEB読者にオススメ】
ミステリーファンでもある平井さんのオススメ、どんなに濃いものが出てくるかと思ったら、かわいいのがきた。ジョンソン祥子さんの写真集『ことばはいらない』『ぼくのともだち』(新潮社)。息子の一茶君と柴犬のマルが一緒に育っていく過程を撮影した写真集。かわいいだけじゃなくて、ひとりと一匹の関係が少しずつ変わっていくのが優しいまなざしで撮影されている。8階写真集売り場だけじゃなく、1階レジ脇でもオススメ中。
八重洲ブックセンター本店
所在地 東京都中央区八重洲2-5-1
営業時間 平日 10:00~21:00 土・日・祝 10:00~20:00
定休日 無休(1月1日は休業)
URL www.yaesu-book.co.jp
小寺 律 (こでら りつ)
本と本屋さんと、お茶とお菓子(時々手作り)を愛する東京在住の会社員。天気がいい週末には自転車で本屋さん巡りをするのが趣味といえば趣味。読書は雑読派、好きな作家は、小川洋子さん、宮下奈都さん。
Column
週末の旅は本屋さん
新幹線や飛行機に乗らなくても、いとも簡単に未知のワンダーランドへと飛んでいける場所がある。それは書店。そこでは、素晴らしい知的興奮に満ちた体験があなたを待つ。さすらいの書店マニア・小寺律さんが、百花繚乱の個性を放つ注目の本屋さんへとナビゲートします!
2013.11.30(土)