首都圏の、しかも東京から自転車で行ける範囲の本屋さんが多いこの連載だが、機会があれば行ってみたい本屋さんが、関東以外にももちろんある。関西は、以前TSUTAYA寝屋川駅前店を訪問したので、今度は中京圏、名古屋市瑞穂区の七五(シチゴ)書店を訪ねた。市営地下鉄の新瑞橋(あらたまばし、難読地名に注意)から徒歩10分弱、静かな住宅街の一角に、自家焙煎のコーヒーショップ「まほろば珈琲館」を併設する七五書店はある。
入り口から一目で全体を見渡せる。雑誌、NHKテキスト、コミックス、ライトノベル、小説、児童書、学参、実用書と日常の本が並ぶ、小さな町の本屋さんだ。一見、何の変哲もない町の本屋さんだが、実は、TwitterやFacebook、ブログでのていねいな情報発信と、熊谷隆章店長の目利きと人柄で、名古屋のみならず、本屋好きの間では知らぬ者のいない全国的な有名店だ。かといって、「おしゃれ」で「とんがった」セレクトショップではなく、近所の小中学校の生徒や家族連れが気軽に入ることができる、親しみやすい町の本屋さんのままというところが、本屋好き心をくすぐる。
中でも、コミックスの品揃えはすごい。スペースとしてはさほど大きくないものの、マンガ読みの間で注目されはじめた作家の作品を、最新刊だけでなく、がっちり押さえている。全国のコミック担当書店員で作るフリーペーパー「まんきき(まんが家さんにききました)」のコーナーに並ぶ色紙は、マンガ好きには感涙のラインアップ。もちろん、来店するのはそうそうたるマンガ読みだけではない、そうした「知る人ぞ知る」名作は、試し読み冊子を用意して、さりげなく、まずは読んでもらいたいとアピールしている。
右:コミックの試し読み冊子が充実。表紙が隠れたり乱雑に散乱したりしがちなところを、棚板の厚みを活かして収納。
さりげないすごさは、コミックスだけじゃない。地元作家大島真寿美さんの全作品フェアをはじめとした文芸、小規模書店としては異例の充実ぶりの詩歌、今回お話をうかがった森晴子さんの担当の絵本、児童書。町の本屋さんとしてのニーズに応えながらも、そこかしこの棚に本好きのツボを刺激する仕掛けが埋まっている。
2014.07.12(土)
文・撮影=小寺律