基本を押さえ、「好き」をアピール

 森さんは、七五書店で働くようになるずっと以前から、この店の客で、よくコミックスや小説を買っていた。縁あってパートタイムで働くようになり、児童書を任されている現在、知らず知らずに児童書の棚にも七五書店らしさが現れているという。児童書、特に絵本は、特殊なジャンルだ。『ぐりとぐら』『アンジュール』『せんろはつづく』『おまえうまそうだな』など、10年、20年、親子、孫の代まで読み継がれる本もある。一方、新作絵本で読者の目にとまって長く残っていく作品はまれだ。森さんが気をつけているのは、ていねいに定番を補充し、切らしてはいけない作品をしっかり押さえ、その上で、目をひく本、力のある本、これはというオススメの本をアピールすること。ご自身も2人のお子さんの親として、この本を手に取ってほしい、読んでほしいという気持ちを込めて陳列している。そんな本が売れると、買ってくれたお客さんに握手したくなるくらいうれしいという。

絵本コーナー、定番の絵本の補充は欠かさない。

 映画化・アニメ化などで人気の作品、ある程度数が見込める人気シリーズの作品と、ぜひ読んでほしいという作品を並べるのは、書店員としての目線と、読者として、親としてのまなざしのバランスだという。椰月美智子さんの『しずかな日々』が少年少女向けの「青い鳥文庫」から発売されたのを、大人気の映画化作品と並べてディスプレイしている。小学生の夏の思い出を描いた児童文学の名作を、小学生時代のこの夏に読んでほしい親としての願いと、自身も大ファンという椰月さんの作品をオススメしたい読者としての思いが込められている。

 ブックカフェやセレクトショップ的な「見せる」選書ではなく、限られたスペースで町の本屋さんとして置くべき本と置きたい本を置く。欲しい本を求めて本屋さんに行き、大切な思い出になる本と出会うかもしれない。大切なおこづかいを持って七五書店に通う子どもがそのまま、本好き、本屋好きになってくれたらいいなと思う。

売れ筋はもちろん押さえ、大好きな作家の本と併せて陳列。
森晴子さん、『初恋料理教室』とともに。

【CREA WEB読者にオススメ】
 森晴子さんのオススメは、担当する七五書店のブログ(外部サイト)でも紹介している、藤野恵美さんの『初恋料理教室』。ものすごくドラマチックというわけではないけれど、日常生活を描いてあったかい物語。巻末のレシピも素敵です。

七五書店
所在地 愛知県名古屋市瑞穂区弥富通2-4-2
営業時間 平日・土曜日 10:00~22:00、日曜日・祝日 10:00~20:00
定休日 第2・4日曜日
ブログ http://shichigo.exblog.jp/
Twitter https://twitter.com/75bs
Facebook https://www.facebook.com/shichigobs

[取材後記] 名古屋の本屋さんを訪ねて思ったこと

 町の本屋さんを守ろうという活動がある。東京・千駄木の往来堂書店の笈入建志店長と、全国の本屋さんをイラストと本屋愛のある文章で綴った『本屋図鑑』を発行している、ひとり出版社、夏葉社の島田潤一郎代表が立ち上げた「町には本屋さんが必要です会議」、通称「町本会」(外部サイト)。

 七五書店でも、7月13日(日)に、七五書店の熊谷店長、『本屋図鑑』の島田さん、『書店ガール』シリーズの著者碧野圭さんの3人による「町本会」公開会議が開催される。本屋好きとしてはたまらないイベントだ。今後も「町本会」の活動に注目しつつ、このコラムを通じて町の本屋さんを応援していきたい。

「町本会」の公開会議を前に、本についての本が充実するレジ脇。内沼晋太郎さんの『本の逆襲』フェア実施中。

小寺 律 (こでら りつ)
本と本屋さんと、お茶とお菓子(時々手作り)を愛する東京在住の会社員。天気がいい週末には自転車で本屋さん巡りをするのが趣味といえば趣味。読書は雑読派、好きな作家は、小川洋子さん、宮下奈都さん。

Column

週末の旅は本屋さん

新幹線や飛行機に乗らなくても、いとも簡単に未知のワンダーランドへと飛んでいける場所がある。それは書店。そこでは、素晴らしい知的興奮に満ちた体験があなたを待つ。さすらいの書店マニア・小寺律さんが、百花繚乱の個性を放つ注目の本屋さんへとナビゲートします!

 

2014.07.12(土)
文・撮影=小寺律