●妥協のない生き方に正面から向き合って
これが少年マンガのバンドものなら「勝ち抜いて栄光をつかむ」のが当然だろう。しかし、本作では主人公がミュージシャンとして人気を獲得しながらも、音楽表現や人としてのあり方に厳しく理想を追い求め、葛藤しまくるのである。結末の衝撃もものすごい。
「結末をどうするかは最初から決めていました。それがないと、テーマがぼやけてしまいますから。きっちりドラマを作りたいんです。
あの結末は……当時、ロックを通して自分を表現する人たちの生き方を見ていて、感じたものから生まれたのです。世の中って、大なり小なり都合の悪いことに目をつぶって妥協しないと生きていけない。それができずに純粋に理想を突き詰めた人はどうなるかを描きたいと」
主人公にとっても読者にとっても、厳しい現実を伝えるような物語である。それこそが、マンガ読者だけでなくロック好きにも支持を受け続ける理由ではないか。
「連載途中、よく『アロンは死んでしまうのか?』と聞かれましたよ。でも、私は死なせなかった。死なせるよりも切ない人生を送らせなきゃならなかったんですね」
死んでしまったなら、読者は甘美な涙を流せるのだが……ここが水野の「甘くなさ」である。
「『かわいそうなアロンの物語』で終わらせたくなかったんです。その先を感じさせる、考えさせるラストにしたかったから。
厳しいかもしれないけれど、子どものころから、人生に対してそういう感覚を持っていたみたいです。身の回りの状態と自分が理想とする状態の差がすさまじく大きくて、私の世界に到達するにはたくさんの障害があるわけです。不条理の中をどう生きていくか。それがひとつのテーマですね」
2023.03.31(金)
文=粟生こずえ
写真=鈴木七絵