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●連載開始当初は、全然読者の反応がなかった!?

 編集者は、日本人のバンドマンの男の子とファンの少女の恋物語になると信じて疑わなかっただろう。しかし、その実態は……。

「もちろん、私がそんな甘い話を描くわけがありません(笑)」

 『ファイヤー!』はヒッピームーブメントにわくアメリカを舞台に、精神の自由を解放するロックにのめりこんでいく若者の葛藤を描いた物語。恋愛も出てこないわけではないが、軸となっているのは男同士の魂の絆だ。

「でも、人気が出たのでやめろとは言われなかったんですよ。ただ、連載開始当初は、全然読者の反応がありませんでした。それまでは1日に最低20通くらい届くのが普通だったのに。絵柄もちょっと劇画寄りでしょ。ストーリーの世界をよりたしかに表現できるよう、意識的に絵柄を変えたんです」

 劇画寄りのタッチは、人間の生々しい心情をリアルに表現するために必要な方法として生み出された。

「きっと読者もとまどったんでしょうね。アロンが出所して音楽活動を始めたところで、爆発的にファンレターが来るようになりました」

 すでに人気作家だった水野の新連載は注目されていたはず。当初、読者が沈黙していたのは、見たこともない新しいマンガだった証拠だろう。『ファイヤー!』はじつに型破りな作品だ。

「アロンと恋に落ちる女性は複数出てくるが、アロンにとって、女性は通りすぎるものなんですよね。音楽だけが彼の一番大切なもの。女の子はいてもいなくてもいいんです。私が描きたかったアロンは、そんな人間だったんです」

2023.03.31(金)
文=粟生こずえ
写真=鈴木七絵