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●「セブンティーン」の連載に男性読者からの反響が

 『ファイヤー!』は、10代女子向けの綜合誌であった「セブンティーン」に連載されたにもかかわらず、男性読者からの反響も大きかったという。

「男性読者の方が多かったんですって。サイン会などのイベントをやると、いまだに男性のお客様が多いです。『ファイヤー!』以降、音楽誌や青年誌の仕事が増えましたね」

 このたび『ファイヤー!』上下巻に収録された短編「ピンク・フロイド」、「キース・ジャレット スプリング・フィールド・ソナタ」は、FM番組と音楽の情報誌「FMレコパル」に発表されたものである。これが単行本初収録であり、伝説的に語られていた幻の作品だ。

「当時、『FMレコパル』さんから『何か描きませんか』と言われて、自分で選んだと思います。クラシックも好きだったので、少し難解なフレーズが織りこまれたロックを魅力に感じてプログレッシブ・ロックが好きになったのかも。一番印象が強かったのはピンクフロイドですね」

 プログレッシブ・ロックの代表格であるピンク・フロイドを描いた作品には、『ファイヤー!』に通ずる哀切が漂う。一方、ジャズピアニスト、キース・ジャレットを描くにあたっては思いきった自由な表現が光る。作品自体がひとつの楽曲のように幻想的である。

「キース・ジャレットの曲、活動全体からイメージして描きました。そういえば、キース・ジャレットに『スプリング・フィールド・ソナタ』という曲はないんですよ(笑)。ともかく音楽が好きで……私が音楽を聴くときに感じるものや、音楽そのものを感じさせるような絵を描きたいと思っていましたね」

2023.03.31(金)
文=粟生こずえ
写真=鈴木七絵