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●男性でも女性でもない、ただひとりの人間として

 意思あるヒロインを描き、深いテーマ性を盛りこみ――水野英子が少女マンガの地平を豊かに拓いたことは紛れもない事実である。「少女マンガ」という言葉が定着したのは70年代初頭に「24年組」と呼ばれる漫画家たちが台頭し始めたころだという。「24年組」は昭和24年前後に生まれた少女漫画家たちを指す言葉で、萩尾望都、竹宮惠子、山岸凉子、大島弓子らに代表的される。SFやファンタジー、同性愛的な要素を導入し、少女マンガを革新したといわれる彼女たちはちょうど水野の一回りほど下の生まれであり、水野の影響を受けて育ったことはまちがいない。

「私自身は『少女マンガ』を描いていた意識はなかったんですけどね。これをくわしく言うと『女性だけの世界は書きたくなかった』ということになるでしょうか」

 とはいえ、水野の作品は「男性の漫画家には描けなかった」世界ではないだろうか。

 「それはそうかもしれません。今回復刊にあたって、『ファイヤー!』を読み返してみて自分でも思いました。この描写は男性には描けないだろうなと。でも、あくまで私としては男性でも女性でもなくひとりの人間として描いたものです」

2023.03.31(金)
文=粟生こずえ
写真=鈴木七絵