『大奥』『きのう何食べた?』で知られるよしながさんが、全編語り下ろしのインタビュー本を刊行。CREA2022秋号「夜ふかしマンガ」特集では、本の内容を端緒に「仕事とよしながふみ」についてお話を伺いました。インタビュー全文を特別に公開します!
よしながふみの仕事論
よしながふみさんが半生を振り返った初のインタビュー本は、読めば読むほどマンガ家と作品との繋がりを感じることができる。そこで語られているのは創作論であり人生論であり、仕事論だ。
仕事に対する意識の芽生えは、小学生のころにあったとよしながさんは言う。
「両親が共働きだったこともあり、将来は自分もずっと働くイメージがありました。ただ、当時はまだ女の人は結婚や出産をしたら仕事をやめなくてはならない風潮が強く、女の人が一生働くことはそう簡単なことではないな、と。やめずに続けられる仕事を探さなくてはという思いから、資格職である弁護士を目指すようになったんです。そちらで生計を立てられれば、空いた時間で趣味のマンガを読んだり描いたりすることができると思ったんですよね。マンガが仕事になるとは、だいぶ先になるまで想像すらしていませんでした」
「友達探し」のつもりで始めた同人誌活動が軌道に乗り、法学系大学院に在学していた1990年代半ば、BL誌の編集者からスカウトされ商業作品を発表するように。
専業作家でやっていくと決めたからこそ、守らなければいけないルールを己に課した。
「おおげさなことではなくて、体に悪いから徹夜で仕事するのはやめよう、と。マンガを一生の仕事にしたいなら、自分の体は自分で守っていくしかないなと思ったんです。そのためには、キャパ以上の仕事は引き受けないようにする。どんなに魅力的な仕事が舞い込んでも、勇気を出してお断りしました。ただ、断るときには必ず“また何か機会がありましたら、よろしくお願いします”とお伝えしています。“もしも原稿を落としたら御社に多大な迷惑がかかるので、今回は無理ですが、ぜひベストコンディションのときに描かせてください”と。こういった場面でウソを交えると双方にしこりが残ると思うんですが、この言い回しにはウソがないんですよ。新人のマンガ家さんたちに“これでいくと悪い印象なく断れるよ”と伝えています(笑)」
『仕事でも、仕事じゃなくても 漫画とよしながふみ』よしながふみ 著/山本文子 聞き手
幼少期から一貫した食への興味、家族への眼差し、仕事への関心、マンガへの愛。前半部では『ベルサイユのばら』をはじめ敬愛する作品の分析とともに、同人誌ブームやBL勃興期の様子をドキュメント。後半部では全作を振り返る、全353ページ+α。
フィルムアート社 1,980円
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2022.11.06(日)
Text=Daisuke Yoshida
Photographs=Tomosuke Imai