普段考えていることを作品に

 たとえ需要を察知したとしても、読者のために描く、という発想はよしながさんの中にはない。そのやり方は、自分の仕事ではない。

「“読者のため”とは思わないようにしています。必ず自分のために、自分が面白いと思ったものを描く。どういう結果に終わっても、それが自分を納得させられる最善の道なんですよね。例えば、自分は好きじゃないけど読者にはこっちのほうがウケるな、と考えて物語を描くということは、絶対すまいと決めているんです」

 すまいと言うより、できない、かもしれないと続ける。

「そういう描き方ができる人は、私にはない才能の持ち主だなと尊敬します。私はどうしても、自分で本当に思っていないことは描くことができないんです。そもそも物語をつくることは、ものすごくエネルギーのいること。そこでさらにもう一個、自分に対してウソをつこうとしてしまうと、アウトプットにまで至らないんです」

 言行一致、という四字熟語が頭に浮かんだ。言っていることとやっていることが、同じであること。

 普段このように考えて、このように生きている人だからこそ、このような作品が生まれるのだ。

『きのう何食べた?』よしながふみ

2DKの都内アパートでともに暮らしているゲイカップル、弁護士の筧史朗と美容師の矢吹賢二の日常を、食生活にフォーカスして描き出す物語。ふたりの食事は自炊がメインで、各話に再現可能なレシピ付き。連載当初は史朗が43歳、賢二が41歳だったが連載が進むにつれて歳を重ね、史朗は還暦が見えてきている。
講談社 704〜715円 既刊19巻

2022.11.06(日)
Text=Daisuke Yoshida
Photographs=Tomosuke Imai

CREA 2022年秋号
※この記事のデータは雑誌発売時のものであり、現在では異なる場合があります。

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