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 “水野なくして今の少女マンガはない”と言われるマンガ家・水野英子さん(83)。当時はまだ男性作家が中心だった少女マンガ界で、『星のたてごと』『白いトロイカ』など数々のヒット作を発表してきました。

 今ほど少女マンガが多様でなかった時代に、初めて男女の恋愛を真っ向から描き、「少女マンガ」の基礎を築いた立役者。手塚治虫に見いだされ、「トキワ荘の伝説の紅一点」として若き日を過ごした水野さんが、少女マンガの黎明期を語ります。(前篇を読む)


●少年を主人公に据えた『ファイヤー!』が与えた衝撃

 制約が多かった少女マンガの世界で、水野は様々な作品を生み出していく。『星のたてごと』はマンガ史上で初めて本格的な恋愛を描いたといわれる作品だ。また、歴史に材をとった『白いトロイカ』、社会問題をはらむ『ブロードウェイの星』など、エンターテインメントでありつつ骨太な作品をものしていく。『ハニー・ハニーのすてきな冒険』などの軽妙なロマンティックコメディも、やはり「自分の意思で動く」女の子が主人公だ。そして、60年代末にスタートした『ファイヤー!』は男の子が主人公のロックコミック。これまた異例の作品だった。

「これはすんなりOKをもらえました。当時、グループ・サウンズが大流行して……男性グループが女の子たちにキャーキャー言われていたので『グループ・サウンズの話を描きます』と言ったら、二つ返事で『いいよ』って」

2023.03.31(金)
文=粟生こずえ
写真=鈴木七絵