この記事の連載
- 水野英子先生インタビュー【前篇】
- 水野英子先生インタビュー【後篇】
●お互い“線”を近づけようと努力した
しかし、いきなり合作ができるとは、よほど感性が合ったのか。
「たしかにオペラや映画など好きなものの共通項は多かったですよ。趣味の合う人と語り合えるのはうれしかったです。合作はもちろん気が合う同士でないと難しいと思いますが……それだけではなくお互い、相手の線に近づけようと努力していましたね。
おもしろいですよ。みんなの絵が組み合わさって完成したとき、『こうなるのか!』という驚きもあって。一種の遊びですね。
ただし3人で描くから早く仕上がるわけではなく、むしろ時間がかかります。試行錯誤が多いし、ミーティングの時間も必要ですしね」
水野がトキワ荘に暮らしたのは7カ月間のできごとだが、あとにも先にもトキワ荘に住んだ女性作家は水野ひとりだけである。これもまた筋金入りのおてんば少女だった水野だからできた大冒険といえよう。
「私は『トキワ荘の紅一点』と呼ばれますけど、男も女もなく、自然に友だちになれたんですよ。トキワ荘に集まった人たちはお互いを尊敬しあっている、本当にいい仲間でしたね。たとえば、作品について『こうしたらどう?』くらいは言うけど、批評はしない。『ライバル』ではなく、いっしょにマンガの世界を盛り上げていこうとする貴重な仲間だったと思っています」
» 後篇に続く
水野英子(みずの・ひでこ)
1939年山口県生まれ。1955年「少女クラブ」にて15歳でデビュー。トキワ荘出身唯一の女性漫画家としても知られる。『ファイヤー!』で、1970年に小学館漫画賞を受賞、2010年に日本漫画家協会賞・文部科学大臣賞を受賞。現在も執筆活動を続けている。
復刻版 ファイヤー! 上
定価 2,420円(税込)
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2023.03.31(金)
文=粟生こずえ
写真=鈴木七絵