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●マンガの中でなら自由に言いたいことが言える!

「中学生のころ、西部劇映画でカウボーイがはいてるジーパンに憧れてね。あの時代、ジーパンを売ってるところなんてなかったんですが、たまたま市場で見つけてね。大喜びで買って帰ったら『なんだそれは!?』って祖母にどなられたんですよ」

 かつてジーンズは「労働着」であり、女の子が着るなんてとんでもなかった。のちに水野が赤塚不二夫、石森章太郎と合作するために上京し、トキワ荘に入居したときに「ジーンズをはいた女の子が来た!」と男たちが驚いたことは語り草となっている。

「ともかく社会的に女性への抑圧が激しかったんです。学校で作文を書くだけでも、“枠”がありました。そんななか、マンガの世界なら、自分の思うことを自由に描くことができたんです。マンガという形で自分の意思を表すことができた。マンガを描くことに救われたと思っています。

 欧米の方に、よく『なぜ日本には女性の漫画家が多いのか』ときかれるんですが、これには社会のあり方が関係してると思うんです。日本って、女性を『男性に隷属しろ、女らしくしろ』と抑えつける傾向が強いでしょう? 女性はずっと居場所がせまくて、発言できる場が少なくて。マンガなら言いたいことを言えますからね」

  感情、心情が深く描かれるのは少女マンガのひとつの特徴である。これは「感性」だけでは片付けられない問題かもしれない。女性が「言いたいこと」をたくさん抱えなければならなかった結果、女性向けのマンガにはテーマ性が高い作品が多いと考えると、なるほどつじつまも合うのだ。

2023.03.31(金)
文=粟生こずえ
写真=鈴木七絵