エレーヌ・グリモーが迎えた円熟の季節

エレーヌ・グリモー『ブラームス:ピアノ協奏曲第1番&第2番』 ¥3600 発売中(ユニバーサル ミュージック)

 さて、行楽の秋ですが、ハイキングや登山などアウトドアが趣味の皆さんは、紅葉シーズンたけなわで楽しい気分を満喫されているかも知れません。

 同じ山登りでも、今回ご紹介するフランス人ピアニスト、エレーヌ・グリモーの新作は、険しいアルプスの岩山をたったひとりで登るようなストイックな音楽。もともと、ドイツロマン派への取り組みに定評のあるグリモーだけど、その王道であるブラームスのピアノ協奏曲第1番と第2番をレコーディングした本作(2枚組)は、魂のすべてを注いで作曲家と格闘した「本気」っぷりが半端ではありません。

 第1番のコンチェルトはブラームス25歳のときの作曲で、この世の「第1番」とナンバリングされたコンチェルトすべてが放っている、青臭く理想主義的な美意識に溢れています。そしてまた、リーフレットに載っている当時のブラームスの写真を見たら、女なら誰でもよろけてしまうはず……あまりにも完璧な美青年なのだから!

 金髪&ブルーアイズのヨハネス青年の姿は当時の画家によっても描かれ、可憐な横顔は女性と見紛う美しさ。この頃には既に先輩シューマンと知り合い、その妻クララへの片思いが始まっていたはずなんです(そのわずか20年後には、かの有名なサンタクロースのようなルックスに変貌するのですが……)。

 20代の青年ブラームスによる第1番のコンチェルトは、内圧されたパッションとプライドがふんだんに詰め込まれ、既に厭世感のようなものも漂っていて、巨大な才能ゆえに自分を持て余していた若き音楽家のエゴがぷんぷんしている。聴くたびに心が震えます。

 グリモーはこの曲が大好きで20代の頃から何度か録音をしているけど、43歳の美魔女となった今、かつてないほど若々しく純粋な演奏に立ち返っているのが凄いです。天才少女として10代の頃から注目されてきたグリモー、演奏家として円熟の季節を迎え、いよいよ激しくブラームスに恋をしている感じなのです。

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2013.10.08(火)