近年、北海道のワインに注目が集まっている。既に知られている空知や十勝だけではなく、西に南に新風が吹いているのだ。
たとえば2011年、余市郡の一部が「ワイン特区」に認定されて以降、この地に続々とワイナリーが立ち上げられ、それにつられるように、新しいバーや話題のレストラン、オーベルジュなどがオープンしている。
今回は、“ナチュール”の旗手として知られる、余市と函館のワイナリー3者に「北海道産ワインの魅力」や「料理との相性の決め手」について聞いた。
“出汁感〟と“酸〟でワインの魅力がくっきりする
![【Domaine Takahiko】曽我貴彦/長野県出身。小布施ワイナリーの創業家に生まれる。2010年に余市に入り、「ドメーヌ タカヒコ」を設立。「個人的にはワインにとっていま面白い相手は鮨。酢飯の酸とワインがお互いに歩み寄れば、また新しい味の世界が生まれるかもしれない」。](https://crea.ismcdn.jp/mwimgs/a/6/1280wm/img_a67e8fc991059984564142b651300bce156616.jpg)
新規のワイナリーやドメーヌが続々と立ち上がる余市・仁木に函館。入手困難と言われるほど、北海道のワインが注目されている。
![【Domaine Takahiko】ワイン。](https://crea.ismcdn.jp/mwimgs/c/2/1280wm/img_c20f6ac64792255831d6b217138c2875122462.jpg)
2010年、まだ余市がワイン特区になる前にワイナリーを立ち上げた「ドメーヌ タカヒコ」の曽我貴彦さんは北海道のワインの魅力について「われわれ日本人が飲むというのがひとつのポイント」だと考えていた。
「そもそも味覚はその土地ごとの味によって形成される。水が硬水のヨーロッパでは、暮らしにミネラルが染み込んでいる。対してわれわれは軟水育ちだから、日常で出汁を感じやすい」
![【Domaine Takahiko】ブドウ畑。](https://crea.ismcdn.jp/mwimgs/6/8/1280wm/img_682553b839bf1570a482217d719b3e1f422057.jpg)
日本人は鰹出汁や昆布出汁など、軟水だからこそ抽出されやすい出汁がベースにあり、その上に積み上げられた味わいが日常にある。
「われわれはヨーロッパの人ほどワインにミネラルを感じられていないかもしれないけど、その代わりに出汁を感じることはできるんじゃないかな」
» 曽我貴彦さんインタビュー 「ドメーヌ・タカヒコ」の10年と日本ワインの現在・過去・未来を読む
![【RITAFARM & WINERY】菅原誠人・由利子/醸造設備メーカーに勤務していた誠人さんと、ワインのインポーターをしていた由利子さんが設立。フランスで学んだ醸造技術を現代の余市に移植した。「世界に通用する単一品種のワインを造りたい。だから主力となるブドウはシャルドネやソーヴィニヨン・ブラン、ピノ・ノワール。ワインツーリズムを標榜しているのに、余市は宿が少ないので、いまうちにも7部屋くらい泊まれる部屋を造ろうかと話をしています」(由利子さん)。](https://crea.ismcdn.jp/mwimgs/1/f/1280wm/img_1f7cec8cb554c89e843ee0710c790f32177426.jpg)
重要なのは、味わいのトリガーとなるもの。余市の「リタファーム&ワイナリー」の菅原誠人さん、由利子さん夫妻はそのポイントに“酸”を挙げた。
「北海道は冷涼な地域だから、酸が特徴的なワインは多い。酸に注目すると、他の味の要素もわかりやすくなるし、ワイン自体の味わいの違いや好みも把握しやすくなる」(菅原誠人さん)
冷涼な地域のブドウは酸が立った味わいになる。果実由来の酸味をどう扱うか。そこに造り手の個性が現れる。
![【農楽蔵】佐々木賢・佳津子/フランスでワインの醸造学を学ぶ仲間として出会い、2011年道南の北斗市に畑を構える。「ワイン、料理、会話のすべてを同時に楽しみ尽くすのは難しい。ならば、ペアリングではなく、何にでもざっくり合う1本を選んで料理と会話を楽しむのもいいですよね」(賢さん)。](https://crea.ismcdn.jp/mwimgs/0/b/1280wm/img_0b02f27950fdb0a5ecbbceade29a08c0115834.jpg)
函館の「農楽蔵」佐々木賢さん、佳津子さん夫妻も“酸”を重視する。
「僕はもともとブルゴーニュのように酸がしっかり残って、少し熟したようなニュアンスがあるシャルドネが好きなんです」(佐々木賢さん)
![【RITAFARM & WINERY】ぶどう畑。](https://crea.ismcdn.jp/mwimgs/1/0/1280wm/img_10c85621804ae31b4c3e0ae85db5c55c277814.jpg)
着目点を絞り込めば、飲み手自身の好みもくっきりと浮かび上がるはずだ。
2022.07.24(日)
Text=Tatsuya Matsuura(babakikaku)
Photographs=Takashi Shimizu
CREA Traveller 2022 vol.3
※この記事のデータは雑誌発売時のものであり、現在では異なる場合があります。