人種、貧富の差、家族関係……小さな火種が全てを焼き尽くす業火に
◆『リトル・ファイアー~彼女たちの秘密』(2020年/Amazon Prime Video)
「隣の芝生は青い」なんてことわざがありますが、本作は日常を生きていて多くの人が感じるであろう“他人との違い”をテーマに、羨望や嫉妬がどんな結果を生むのかを緊迫の全8話構成で描いた家族ドラマ。2020年からPrime Videoで独占配信中です。
原作は香港移民のアメリカ人女性作家セレステ・イングの小説であり、本作は主演を務めた俳優のリース・ウィザースプーンとケリー・ワシントンがこの本のファンだったことから生まれました。2人がリズ・ティゲラーに本のドラマ化を打診し、実際に製作総指揮を担当したという背景があるんですよ。そんな原作愛を持つ主演2人による迫真の演技バトルは必見です。
ほかにも本作が見事なのはその構成。なんと第1話目に、主人公のひとりである白人女性エレナの住む豪邸が、業火に焼かれて燃え落ちるところから始まるのです。呆然と火を見つめ立ち尽くすエレナ同様、視聴者も一体何が起こっているんだ!? と驚愕させられることでしょう。
どうしてこんな出来事が起きてしまったのか……本作はそれを振り返るように時間をさかのぼっていきます。白人女性エレナともうひとりの主人公である黒人女性ミア、まるで正反対の性格の2人が、徐々に軋轢を深めていくさまを丹念に描き出していきます。
黒人と白人、貧富の差、才能の差、お互いに埋まることのない差を持つ両者の出会いは、意図せずに互いの家庭のバランスを崩していき……。小さな振り子がグラグラと大きなものに変化していく様子が実に見事で惹き込まれるのです。
そして本作をさらに複雑でおもしろくしているのが、子供の存在。正反対の2人ですが、自分の子供たちの気持ちに向き合っていないという面では共通しているのです。このひと匙のスパイスが物語をどう揺さぶっていくのかは、本作を実際にご覧になっていただくのが一番でしょう。
『リトル・ファイアー~彼女たちの秘密』
1990年代のアメリカ・オハイオ州はクリーブランド。貧富の差が激しいこの地域で豪邸に暮らす白人女性のエレナ。完璧な家庭を自負する彼女のそばに、アーティストをしているというシングルマザーの黒人女性ミアが引っ越してくるのだが……。
2021.04.28(水)
文=TND幽介(A4studio)