身体中の全水分が出てしまったんじゃないかと思うくらい泣いた
■「重版出来!」
このドラマは週刊漫画雑誌の編集部の話で、色んな漫画家さんが登場するんですが、ほぼ全員が自分の才能に悩んでいます。
周りから見たらどれだけ天才に見える人だってちゃんと悩んでいます。みんな“自分がやりたいこと”と“自分ができること”“周りから求められていること”の狭間でもがきながら自分なりの落とし所を見つけていきます。これを見つける上で編集者のサポートが絶対必要という所もポイントです。
毎話一人ひとりにしっかりスポットライトが当たっていくんですが、その中でも僕が身体中の全水分が出てしまったんじゃないかと思うくらい泣いたのが第7話です。
この回の主役はムロツヨシさんが演じる沼田という男です。沼田は20年前に新人賞を取って以来、評価される様な作品が描けていません。それでも「自分には才能がある」「自分は特別だ」と言い聞かせながら、自分の本当の実力から目を逸らし、ベテラン漫画家の元でずっとアシスタントをしていました。
どうです? こちらも自分に重なりそうな匂いがしてきませんか? 僕はぷんぷん匂い過ぎて鼻がもげそうでした。
しかし、そこに現れちゃうんですよね、荒削りだけど本物の天才が。
沼田は圧倒的な才能の差を感じてしまいます。こりゃ勝てない、と。ある日、その天才が、自分が描いた漫画の原稿を読んでいるところを目撃します。沼田は恥ずかしさの余り「読むな!」と怒り、自分の原稿を奪い取ろうとします。しかし、その時あることに沼田は気付きます。それは自分の漫画を読んで、あの天才が感動して泣いているんです。沼田はその出来事を機に、漫画家を辞める決断をします。果たして夢を諦めることになった沼田の人生は幸せじゃないのか。これは皆さんの目で確認してみて下さい。
この回のラストシーン、沼田がその天才に漫画家を辞めることを告げた後、夜の街を泣きながら歩く時にドラマの主題歌であるユニコーンの「エコー」という曲がかかるんですが、ここで身体の水分を最後の一滴まで持っていかれます。なので小まめに水分補給しながらご覧になられることをお勧めします。
「重版出来!」
2016年4~6月にTBS系で放送されたドラマ。「コンフィデンスアワード・ドラマ賞」受賞。
原作:松田奈緒子「重版出来!」
脚本:野木亜紀子
出演:黒木華、オダギリジョー、坂口健太郎、荒川良々ほか
TCエンタテインメントよりBlu-rayが発売中。
2021.02.16(火)
文=向井 慧