最近、テレビでは先輩・後輩・同業者を問わず、その場を見事に回す立役者。そしてラジオではなんと4本ものレギュラーを持つ、お笑いトリオ・パンサーの真ん中、向井慧さん。
かつては「出待ち率ナンバーワン芸人」と称され、「よしもと男前ランキング」では2015年に1位を獲得。しかし、そのアイドル性が仇となり、薄味芸人として扱われてしまった時期もありました。が、2020年からの向井さんの大活躍はご存じの通り!
「自分には才能がないんじゃないか」と、常に悩みながら芸能界を渡ってきたという向井さんを支えてきたのは、エンタメです。向井さんのエンタメ解説はラジオなどで大好評。ただの解説ではなく、弱った自分や仲間に想いを馳せ、寄り添うトークが心に響き、まったく興味がなかった作品も猛烈に観たくなります。
というわけで、CREA WEBでは向井さんに書き下ろしのエンタメ紹介を依頼。薄味どころか濃口で激アツ。仕事だけでなく、人生の壁にぶち当たったときに観返したくなる映画・ドラマ・アニメの3本です!
仕事で自信をなくした時に観て欲しいエンタメ3選
「パンサー」というトリオでお笑い芸人をやらせていただいてる向井慧という者です。立ち位置的には真ん中のにやけ顔の奴です。芸歴は15年になります。
15年前、19歳の僕は生意気にも「俺が一番面白いんだ!」という気持ちを持って吉本興業の門を叩きました。お笑いの世界と言うのは、全国から「俺が一番面白い」と思ってる奴らが集まってきている世界です。
実際に入ってみると日々、「え? 待って? こんな面白い人いるの?」の連続で、気付けば最初に持っていた自信なんかは跡形もなく崩れ去っていました。
しかし、それでも僕は15年お笑い芸人をやってこれています。
決して思い描いた理想の自分ではないですが、それでも好きな世界で楽しくやれていることを肯定してくれて、こんな自分でも良いんだと、また少し自信を持たせてくれた作品をいくつか紹介したいと思います。
世界中の“はしの方”に座っている自信のない人に観て欲しい青春映画
■「アルプススタンドのはしの方」
この映画の舞台は甲子園で、夏の高校野球大会で起こる物語です。
そう聞くと、例えば「弱小野球部が奇跡を起こして勝利する」と言うようなスポ根物語を想像する方も少なくないと思いますが、この映画には一切野球をプレイしているシーンは出てきません。タイトルにある通り、映るのはほぼ応援席であるアルプススタンド。そのアルプススタンドでも普通、中心は野球部の部員、ブラスバンド部、応援団だと思うんですが、この映画の主役はその更に“はしっこ”に座っている何となく応援に来させられた4人の生徒達です。
全国大会を諦めることになってしまった演劇部の女の子2人、圧倒的な才能の存在によって野球を諦めた元野球部の男の子、ずっと成績1位だったのに最近順位が落ちてしまった勉強しか取り柄のない優等生の女の子といった、何かもやもやしたものを抱えている、普通なら主役ではないような子達です。
その子達は、本人なりに必死でやっているけど報われなくて、その報われなさを「しょうがない」と自分に言い聞かせて無理矢理納得させています。
どうですか? 何か自分に当てはまるところはありませんか? 僕にはあり過ぎました。
15年前、お笑い界のど真ん中の主役(MC)を目指して入って来たものの、今現在アルプススタンド(雛壇)の端の方に座っているからです。
じゃあ、果たしてそんな人間はずっと主役にはなれないのか。いや、そんなことはない。登場人物全員が自分の人生の主役なんだ。そんなメッセージがこの映画にある気がするので是非観ていただきたいです。
僕はこの映画を夏の暑い日に映画館で観たんですが、横に座っていたおじさんのTシャツがとてつもなく汗臭くて、「いや、最早4DXじゃん」と思ったのも含め、強烈に印象に残っている映画です。
「アルプススタンドのはしの方」
2020年7月公開
監督:城定秀夫
脚本:奥村徹也
原作:籔博晶、東播磨高校演劇部
出演:小野莉奈、平井亜門、西本まりん、中村守里、黒木ひかりほか
ポニーキャニオンよりBlu-rayが限定発売中。
2021.02.16(火)
文=向井 慧