3.『チェンソーマン』
“発明級”の主人公像に「こういったアプローチもあるのか!」
『僕のヒーローアカデミア』や『呪術廻戦』は「生真面目さ」が根っこに流れているが、それらとは少々ズラしたアプローチで、人間の本質を描こうとしているのが『チェンソーマン』。2020年の『このマンガがすごい!2021』オトコ編で第1位に輝いた話題作だ。
『ファイアパンチ』も人気を博す藤本タツキ氏による本作は、「悪魔と戦う存在=デビルハンター」たちの物語。「チェンソーの悪魔」に変身する能力を手に入れた少年デンジが、公安のデビルハンターたちとともに、敵と激戦を繰り広げていく。
本作の特異性は、主人公デンジの性格だ。極貧生活を強いられ、まともな教育も受けられなかった彼には正義感も善悪の概念も備わっておらず(ないのではなく、まだ生まれていない、という設定が秀逸)、ただただ「キスがしたい」「うまい飯が食いたい」という己の欲求を満たすために動く。
これまでのバトル漫画の主人公にあった「誰かを助けたい」といったような正義の心や、「●●になりたい」といったような野望すらない。食欲・睡眠欲・性欲といった人間の本能が、行動理念となっているのだ。
このいわば“前提”のもっと手前、マイナスから始めるというつくりが、ヒーロー誕生の物語を分厚くさせている。
能力を先に持ってしまった主人公が、仲間や友人を得て、失い、心に喪失感や後悔、或いは自責の念を抱える。ただ本人にとっては初めての感情のため、なぜ自分の心が疲弊するのかがわからない。
原作は第1部完結も第2部・アニメ化に期待大!
作品のテンションはかなりぶっ飛んでおり、サイケデリックな展開もあるのだが、デンジが一つひとつの出来事に純粋に反応するさまをきめ細かく描いており、読んでいると「こういったアプローチもあるのか!」と新鮮な驚きを得ることだろう。人格形成がまだほぼ手付かずという主人公像は、本作がもたらした発明といえる。
ちなみに『チェンソーマン』は、『呪術廻戦』を手掛けたアニメーションスタジオ「MAPPA」によるアニメ化も決定済み。
藤本氏からは、「ドロヘドロと呪術廻戦のパクりみたいなチェンソーマンをドロヘドロと呪術廻戦のアニメ制作会社がやってくれるんですか!?」とウイットの利いたコメントが寄せられている。
2021.01.29(金)
文=SYO