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 劇場版『名探偵コナン』史上No.1のヒットをたたき出した第26作『黒鉄の魚影』。過去作で試行錯誤した末にたどり着いたノウハウを、どう今回の物語に活かしていったのか。本作を観ると、制作陣の覚悟のほどがうかがい知れる。劇場版史上最大のピンチといってもいいほど、踏み込んだ内容が描かれるのだ。

(※ここからは『黒鉄の魚影』のネタバレがふんだんに飛び出します。お気をつけて&ご容赦ください)

 そもそも灰原哀は黒ずくめの組織から逃げ続けている存在のため、両者が邂逅した瞬間(灰原が幼児化しているとジンたちにバレた瞬間)コナンたちの日常は一変する。つまりシリーズを揺るがしかねない“禁じ手”ともいえ、「灰原×黒ずくめの組織」は相当慎重に進めなければならない題材でもある。そのため自分などは「割とサラッとした絡み方を模索するのかな」などと邪推していたのだが……。ほぼ情報が明かされていないマスコミ試写のタイミングで鑑賞したところ、「めちゃくちゃ踏み込んでいるじゃないか!」と衝撃を受けた次第。

 『黒鉄の魚影』では、黒ずくめの組織のウォッカたちに灰原がさらわれ、幼児化したと(ほぼ)バレる。つまり、あってはならない最悪の事態が起こってしまうのだ。そのためコナンと阿笠博士の取り乱しようは尋常ではなく、かつてないほどのシリアス展開をみせる。

 阿笠博士が灰原を取り戻そうとカーチェイスを演じ、過去イチレベルで活躍する→だが逃げられてしまい号泣するシーンや、コナンがパニックに陥り目暮警部や佐藤刑事に激昂してしまうシーン、灰原が絶望して涙を流すシーンなど、ファンからすると衝撃的な展開が立て続く。喩えるなら「原作で今後起こる事件を先取りしてアニメ化した」ような緊迫感……。第25作『ハロウィンの花嫁』(2022)にも若干その要素があるとはいえ、このレベルのものはこれまでの劇場版シリーズではみられなかったように感じる。

2023.07.05(水)
文=SYO