作品とともに育っていくメッセージ性やテーマ
メッセージ性にも、注目したい。『ハロウィンの花嫁』ではコナンがテロの犠牲者の遺族を抱きしめて「憎しみを断ち切ること」「復讐からは何も生まれない」と説くシーンが用意されていたが(これは原作の名ゼリフ「犯人を推理で追い詰めて、みすみす自殺させちまう探偵は…殺人者とかわんねーよ…」「勇気って言葉は身を奮い立たせる正義の言葉…人を殺す理由なんかに使っちゃダメですよ…」とも通じる)、『黒鉄の魚影』では志保の幼少期を描くにあたってアメリカにおけるアジア人差別への言及がある。
思い返せば第6作『ベイカー街の亡霊』(02)でも日本の教育システムや世襲制に対する問題提起がなされていたが、ドメスティックな意識にとどまらず、よりワールドスタンダードな視野が成長してきた印象だ。『緋色の弾丸』がアメリカのデトロイトで始まったように、『黒鉄の魚影』はドイツのフランクフルトから物語が始まる。
さらに、これまでのFBI・CIA・MI6に加えて今回はユーロポールも登場し、世界観がどんどん拡大していくなかでこうしたメッセージ性やテーマが育っていくのは、自然な(それでいて不可欠な)流れといえるだろう。物語の奥行きがより生まれ、作品力の向上にもつながっている。
ここまで述べてきたように、『黒鉄の魚影』は「この映画でしか観られない」エクスクルーシブな内容でありながら、原作!? と見まごうほど原作と密接にリンクしている。シリーズ初の興行収入100億円突破にふさわしい作品であり、劇場版コナンシリーズの中でも屈指の傑作として語り継がれていくことだろう。
SYO
映画ライター・編集者。映画、ドラマ、アニメからライフスタイルまで幅広く執筆。これまでインタビューした人物は300人以上。CINEMORE、装苑、映画.com、Real Sound、BRUTUSなどに寄稿。Twitter:@syocinema
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2023.07.05(水)
文=SYO