「世界から見た日本」が描かれるように
また、黒ずくめの組織が動き出す際の理由付けも秀逸。今回の舞台は世界中の警察が持つ防犯カメラを繋ぐための海洋施設「パシフィック・ブイ」だが、そこに導入された新技術「老若認証システム」が発端。
写真を読み込めばその人物の若いときや年を取ったときが予測できるため、指名手配中の容疑者や誘拐の被害者、行方不明者などの捜索に役立つ画期的なシステムなのだが、これで小さくなる前の灰原=宮野志保の写真を読み込むと現在の灰原がヒットし、「灰原=宮野志保=シェリー」が明るみに出てしまう。
黒ずくめの組織においては厄介なシステムでありながら裏切り者のシェリーを捜し出すためにも掌握したいものなのだ。
しかも本作ではその開発者が灰原=志保がアメリカに住んでいた時期の同級生だった、という設定まで加わっており、「離ればなれになった友人を捜したい」という目的がドラマの深みを生み出し、灰原の人物像の掘り下げも兼ねている。
またこの「老若認証システム」、第5作『天国へのカウントダウン』(01)に登場する「10年後の顔を予想する機械」のアップデート版ともいえ、これもセルフオマージュになっている。
なお、近年の劇場版コナンシリーズはただ規模感をワールドワイドなものにするだけでなく、「世界から見た日本」も重要なポイント。
第23作『紺青の拳』(19)でのシンガポールは日本→海外で、第25作『ハロウィンの花嫁』での渋谷は海外→日本だったが、『黒鉄の魚影』は八丈島近海に浮かぶ海洋施設パシフィック・ブイに各国から技術者が集うという設定で(サーバーを冷やすために海中になければならないという定義づけも上手い)、国内・国外の視線がどちらかからの一方通行ではなく均等で多国籍なものになっている点も特徴的だ。
劇場版コナンシリーズでの海洋施設といえば『14番目の標的』のアクアクリスタルだが、これを彷彿させることで、人工呼吸シーンを予感させるという仕掛けにもなっている。
2023.07.05(水)
文=SYO