1.『僕のヒーローアカデミア』
リアリティのある「心身の追い込み」の先駆け
リアリティのある「心身の追い込み」という近年の漫画のトレンドを考えたときに、ひとつの先駆けといえるのが、この『僕のヒーローアカデミア』だ。
本作は、世界総人口の約8割が、「個性」と呼ばれる特異体質という設定が敷かれている。その世界においては、世の秩序を守る「ヒーロー」という存在が職業化していた。
主人公の緑谷出久は、「無個性」というハンデを抱えながらも、ヒーローを目指して奮闘していく。
一見すれば王道のジャンプ漫画の継承者といえる存在だが、『僕のヒーローアカデミア』にはひとつ大きな特徴がある。それは、主人公の傷が蓄積されていくということ。
出久はNo.1ヒーローのオールマイトから超パワーの個性を譲渡されるのだが、一朝一夕で使いこなすことはできない。それどころか、無理に個性を発動すると、収まりきれずに骨が折れ、筋肉が裂傷を起こし、大けがを負ってしまう。
バトル漫画では往々にして「回復キャラ」が存在するのだが、『僕のヒーローアカデミア』においては治癒能力を持つキャラクターは登場するものの、なかったことにするわけではない。「本人の治癒能力を加速度的に高める」だけだ。
そして、出久においては、困っている人を「救ける」ために無茶な個性の使い方をした代償として、右腕を中心に傷が増えていく。これは、作者の堀越耕平氏のポリシーだという。
「都合よく治らない」ということ。痛みを徹底的に「ちゃんと」描くということ。このルールを守っているからこそ、出久が鍛錬を積み、少しずつ戦闘力が上がっていっても、根底のリアリティが消えることはない。
ライバル同士が駆け上がっていく構造の美しさ
また、出久のライバルである爆豪勝己においては、「心の成長」を丹念に描いている。
天才タイプがゆえに、落ちこぼれの出久をいじめていた勝己が、挫折を繰り返しながら少しずつヒーローの器へと近付いていく過程は、「心に身体が追い付いていなかった」出久の対義であり、両者が心身ともにヒーローとして駆け上がっていく構造が美しい。
主人公のライバルを、序盤では完全に「嫌な奴」として描くというアプローチも、かなり挑戦的だ。
身体がボロボロになっていく出久と、精神が追い込まれていく勝己。さらに直近の展開では、バトルの過酷さが一層増し、敵キャラクターが抱える闇(それぞれの過去がなかなかにエグい)や、戦いのさなか手足が吹き飛ぶなど、人体損壊が発生するハードな描写もエスカレート。
王道漫画のトップランナーとして、どこまで攻め続けられるのか。期待しつつ見届けたい。
2021.01.29(金)
文=SYO