大切な記憶の国へと誘う映画

 最後に、私が大林監督映画のなかでも一番大好きな「もうひとりのヒロイン」を。

 『ふたり』でヒロインの実加に明るくやさしく寄り添う親友のマコ、『青春デンデケデケデケ』で主人公の初恋の人、唐本幸代を演じていた柴山智加さんである。

 素朴で優しい笑顔は、まさに青春の一ページ。『ふたり』で、「グッバイ、親友!」と言うシーンは青春映画屈指の名笑顔だ。今でも、彼女は私の「こんな親友がいたら嬉しかったランキング」不動のナンバー1である。

 今、どうなさっているのだろう。調べてみたら、素晴らしくかわいく成長し、しかも現役でご活躍中だった。うおお、マコ―ッ!

 大林映画のヒロインを見ていると、思い出から消えそうで消えない、学生時代の「やさしいあの娘」「眩しいあの娘」が、記憶からひょっこり掘り起こされる。

 見ているだけで足が筋肉痛でパンパンになりそうな尾道の坂を踏みしめ、時には転げ落ち、大人の階段を上っていく少女たちの輝きよ!

「『さびしんぼう』は本当にいいぞ。素晴らしく甘酸っぱいぞ! せつないぞ!」

 邦画に全く興味のない友人も『さびしんぼう』だけは特別だと熱弁していたっけ。ヒロイン富田靖子の笑顔に、きっと大切な誰かを思い出していたのだろう。

 新型コロナ騒動で延期になっているが、大林監督が病と闘いながら完成させた遺作『海辺の映画館―キネマの玉手箱』も、近日公開だ。

 映画館で観ることができる日が、早く来てほしい。

田中 稲(たなか いね)

大阪の編集プロダクション・オフィステイクオーに所属し『刑事ドラマ・ミステリーがよくわかる警察入門』(実業之日本社)など多数に執筆参加。個人では昭和歌謡・ドラマ、都市伝説、世代研究、紅白歌合戦を中心に執筆する日々。著書に『昭和歌謡 出る単 1008語』(誠文堂新光社)など。
●オフィステイクオー http://www.take-o.net/

Column

田中稲の勝手に再ブーム

80~90年代というエンタメの黄金時代、ピカピカに輝いていた、あの人、あのドラマ、あのマンガ。これらを青春の思い出で終わらせていませんか? いえいえ、実はまだそのブームは「夢の途中」! 時の流れを味方につけ、新しい魅力を備えた熟成エンタを勝手にロックオンし、紹介します。

2020.05.02(土)
文=田中 稲