今だからこそわかる『時かけ』吾郎の悲哀
今だからこそわかる『時かけ』の残酷もある。それは演じる堀川吾朗、通称ゴロちゃんの報われなさである。
醤油屋の倅として、大学進学を断念し家業を継ごうとする誠実な男。しかもヒロインとは幼なじみでお互い気にしている。いいムードだ。
なんにもなければ、ふたりは素敵なカップルになって、ウフフキャッキャ言いながら堀川醤油を盛り上げていったはず。
私は未来人・深町に「ビッグになったら迎えに来る」と言いつつそのまま帰らない夢追い男と似た始末の悪さを感じる。できるなら一度お会いして30分ほど説教したい。
吾朗を演じた尾美としのりは『転校生』で、小林聡美と男女入れ替わり一美役をしていた。そういう意味では、彼も大林映画のヒロインのひとりである。
昔は小林聡美の凛々しさに夢中になっていたが、尾美としのりの見事な「女子っぷり」を追ってみると、新しい感動が得られるかもしれない。ヨッシャ観よう。
石田ひかりの頑固な眉毛に 憧れる『ふたり』
原田知世が青春の輝きの具現化なら、思春期の鬱々とした底光りの具現化が『ふたり』の石田ひかりだ。
石田ひかり演じる実加は、才色兼備の姉・千津子を事故で亡くしたのをきっかけに、変質者に殺されかける、母が精神不安定になる、いじめにあう、父が不倫する、と負のドミノ倒しに遭う。
そりゃ姉も心配で幽霊になって手助けしたくもなるだろうと……。
が、石田ひかりのまっすぐ横に墨で書いたような一文字の眉毛と、滑舌の良い囁きボイスには、「助けてもらって感謝してるけど、私本気出したらすごいから大丈夫」感がビシビシ漲っていて、これが怖い!
生命力を放出させるのではなく、ジワジワと小出しにする感じがゾワゾワする。ビシジワゾワといろいろ書いてしまったが、これもまた思春期の女の子の輝き。
石田ひかりの眉がもう少し細く整っていたら、『ふたり』の感動は薄まっていたかもしれない。黒々した眉毛は、大人未満少女以上のエネルギーを表す重要なファクターだ!
彼女が小説を書いた原稿用紙を洗濯物のように干すシーンに憧れ真似したが、単に部屋が汚くなっただけで、「ドラマと現実は違う……」と早々に撤去したのもほろ苦い思い出だ。
2020.05.02(土)
文=田中 稲